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君といた時間

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そう言えば鈴木だったな。惜しかった、ごめんと笑いながら再びコーヒーをすする小野寺さんに僕もつられてコーヒーに口をつけた。佐藤や田中と鈴木じゃそこまで惜しくは無い気もしたけど、なんだか憎めない人だ。とりあえず好い人そうだった。彼は僕なんかよりずっと怜二郎の事を気にかけていたのかもしれない。
「その様子じゃ、瀬川とは連絡先交換してなかったんだね。」
急に痛い所を突かれて、僕は目を合わす事が出来なくて少し身体をこわばらせて缶コーヒーを見つめた。思わず握った缶はぬるくなり始めてその熱は既に僕と同化しており、この指先を暖める事は適わなくなってきた。熱は、いつしか冷めてゆくのだ。だから、もうこれ以上は消えないように残り少ない熱を飲みほした。そんな僕を横目に、アイツいまどきケータイ持ってなかったもんなーと小野寺さんも苦笑しながらコーヒーを少し煽った。引き続き気を利かせてまた雑談をしてくれようとしてくれているが、僕は空っぽになった筈の缶をもう一度煽ってみてから、思い切って怜二郎の消息を訊いた。
「その、瀬川さんは今は…」
「…瀬川はね、前期で辞めたよ。」
正確には後期の始まる前日だったかな、と小野寺さんは一呼吸置いてから答えた。
ああ、その答えはなんとくは気付いていた筈なのに。その答えを聞く為にこうして小野寺さんを呼び出した筈なのに、いざこうして聞かされてみるとどうしようもない遣り切れなさに駆り立てられた。まだ小野寺さんの言葉を脳が理解しきれてない気がする。ぼんやりとした現実感が襲って来ると共に、次から次へいろいろな感情が押し寄せて来た。
何故ひとこと言ってくれなかったのか、何故あの夏の日に思わせぶりな態度と言葉を残したのか、僕の存在は彼にとって何だったのか、どうして彼の様子の変化に気付けなかったのか。悔しさや悲しみ、そして耐えきれない喪失感と狂おしい程の愛しさが同時に頭を擡げてきて、その感情の大波に吐き気すら覚える。大丈夫?と気遣ってくれる小野寺さんにも何と応えればいいか解らなかった。なんて情けないんだろう。自分で自分を思いっきりぶん殴ってやりたくなる。きっと僕はいま酷い顔をしているだろう。
作品名:君といた時間 作家名:ソウスケ