君といた時間
小野寺さんは驚いてはいたけど僕の必死な姿に何かを悟ってくれたようで、少し呆れ気味の溜息と共に、とにかくいったん図書館を離れることを提案してくれた。
「もしかして、君が瀬川の油の友達?」
二人で缶コーヒーを買って人気の無いベンチに腰を下ろすと、先に口をきいたのは小野寺さんだった。
「たしか、佐藤君とか田中君とかそんな感じの…」そう続ける小野寺さんに今度は僕が驚かされる番だ。びっくりしてまともに返事ができないでいる僕を見ると小野寺さんは少し微笑んで「そっか、君がね」と一人得心したように彼は呟きながらコーヒーに口をつけた。
「その、急に声掛けたりしてほんとすみませんでした。でも、どうしてもお訊きしたいことがあって。僕、油2年の鈴木です。」
「あ、鈴木君だったか。」
ごめんごめんと小野寺さんは笑いながら、俺人の名前覚えるの苦手でさー、とおどけてみせた後そのまま話を続けた。
「まずはなんで君の事知ってたかって事から話そうか?」
僕からいきなり声を掛けたのにすっかり小野寺さんのペースにのまれている。そんな僕を尻目に、彼はいたずらっ子のように笑みを深くして話し始めた。
「瀬川とはそんなにすごく親しかった訳じゃないけど、たまに相談に乗ったりして話はしていたんだ。アイツが学費や生活費は奨学金と自分のバイト代でなんとかしてた事は知ってた?」
僕が頷くのを確認するように目を合わせたあと彼は話を続けた。
「アイツは確かに才能溢れるってタイプではなかったけど、それでもそこそこの物は造っていたし、とにかく頑張り屋だったから俺も気には留めていたんだ。たまに見掛けたら声掛けるように気を付けていたら、だんだん少しずつだけど打ち解けてくれてね。
課題と作品とあと少しバイトの話以外あまりしない奴だったけど、今年の春くらいから他学科の子の話をし始めたんだよ。最初は彼女でも出来たのかってからかったら違うって、本当にちょっとだったけどアイツ動揺してさ。それからたまに君の話をする時は、あの無表情な瀬川にも少し表情の変化が多かったような気がしたから印象に残ってたってわけ。まぁ、名前まではちょっと失念してたけど。」