君といた時間
「いや、今日はたまたま。でも圭が来る前に小野寺さんが――仲いい助手さんが来てくれてたし、それに初日とかは今回のグループのみんなの友達とか知り合いとか来てくれてたから。」
そういえば一度だけ、怜二郎が助手らしき人と歩きながら話しているのを見かけた事がある。よくグループ展示をいろんな人に誘われてやっているから人付き合いはそこまで悪い訳ではないだろうけど、はっきり言って彼は愛想はない方だし、研究室で和やかに雑談している様子は僕には想像しにくかったので僕は少し驚いたのを覚えている。といっても僕が知っている怜二郎は木曜日の放課後の彼だけなんだけど、そんな風に少し卑屈に思うと少し胸の奥がチリッと灼け付くのを感じた。
にわかに信じられなかったけど、どうやら情けないくらいに僕は怜二郎の作品だけではなく彼自身に惹かれているらしい。僕も、もちろん怜二郎だって男だけど、それは最初から今だって解っているけれども、この想いはどうしようもなかった。こんなになるまで気付かなかったなんて酷い鈍感だ。いや、気付こうとするのを押さえていたのだろうか。確かに僕は出会ってから怜二郎の作品に、そして彼自身にすごい勢いで惹かれていった。でもその想いをずっと作品に対する評価にすり替えていたのだ。そうしてもはや耐えきれなくなった想いを、いきなりキスという大胆過ぎる行動に昇華させて自覚するだなんてこの倒錯っぷりには戸惑わざるを得ない。僕はずっと自分の事を普通でわりと素直な性格だとおもっていたけど、どうやらそうでもなかったみたいだ。
けれど今はその事はひとまず横へやり、ちらり怜二郎の様子を窺った。すると彼はすぐに気付いたようで「なに?」と訊き返してきたので、僕は思い切って気になっていたことを告げた。
「怜二郎、かなり痩せたね。この夏どんだけ頑張ったの。」
そう尋ねると、怜二郎は無表情のまま少し顔を伏せてしばらく黙りこくってしまい、その読めない彼の表情に不安になった僕はほんの少しだけつないだ手を握りなおすと、怜二郎がやっと口を開いた。
「ほんとはさ、アニメーションやってみたかったけどやっぱ難しかったし大変だった。圭のあの作品、いっぱい動いてたし結構凄かったんだなって今更に思ったよ。…またアレ観てみたいな。」