君といた時間
白塗りの壁、直線で構成された夏の熱苦しさなどとは無縁のような品のいいモダン建築のそのギャラリーはまさに“ホワイトキューブ”と呼ぶにふさわしく、スッとした無駄のない美しいフォルムはどことなく怜二郎を感じさせた。蝉よりうるさいかもしれない心臓と上昇しそうな体温を抑えつつ、ようやく着いたギャラリーの重いドアを開けて中に入ると、空調の効いた室内は灼熱の外を延々と歩き続けた僕にはたまらなかった。つづいて展示スペースを見渡してみると、怜二郎の姿はおろか誰も見当たらなくて思わず拍子抜けしてしまう。しかしたまたま席を外しているのだろう、そう思い仕切り直してゆっくり作品を見せてもらうことにした。ギャラリーは三階建てで一番上はオフィス、1階と2階の展示スペースは吹き抜けになっていた。一階を一通り見終えてから少々急な階段を上って二階まであと数段というところで目線を足元から上げたその瞬間、僕はびっくりしてあわや階段から転げ落ちるかと思った。…さすがにこの位置から落ちたらただでは済まないと思うと、いきなり過ぎる肝試しにぞっとする。
二階のスペースには出会った時と同じように怜二郎の寝転がっていた脚がぬっと伸びていたのだった。
一体何のデジャヴなんだ――僕は呆れや嬉しさや安心やらでぐちゃぐちゃになりそうな頭を、ひとつ深呼吸をして落ち着かせてから残りの階段を慎重に登った。このフロアが彼のスペースなんだろう。今回はインスタレーションらしく、このスペース自体が彼の一部のようで安心感と幸福感が僕を満たしていく。
そうっと起こさないように怜二郎の方へと近づいて、傍らに座りこんでみる。