君といた時間
それから毎週木曜日の放課後、僕と怜二郎は一緒にいることが当たり前になっていた。いつしかこの埃っぽいソファーにも愛着すら湧いてきた。
怜二郎とは学年も学科も違うのでほとんど学内ですれ違うこともなかった。さらに彼はケータイを持っていなかった。ケータイ代遣うくらいならその分画材買ったり美術館行ったりしたいというのが彼の言い分だったのだけど、メールをやりとりしなくても、別れ際に約束を交わさなくなっても、木曜にはあのギャラリー前のソファーに僕がいれば怜二郎がやって来たから、それで十分だった。
お互いの作品についてとか昨日食べたものの話とか他愛もない話をしたり、時にはほとんど口をきかずにお互い黙々と手を動かしていることもあった。隣にいるだけでよかった。僕らはもうそれだけでよくなっていたんだ。
そして季節は夏へと移り夏休みを迎えた。
大学は通信課程の夏季スクリーング生徒用に開いていたが、僕も盆から実家へ帰り、怜二郎はここぞとばかりにバイトに勤しんでいた。それぞれ過ごした短い夏休みも終わりにさしあった頃、僕は青山にあるギャラリーへと足を運んだ。青山墓地脇のだらだらと続く緩やかで長い坂道を、8月のじりじりと焙られるような日差しを浴びながら目的地を目指して登って行く。まだまだ蝉の鳴き声がやかましかったし、うだるような暑さは堪らなかったけど、僕は内心遠足の子供のように胸が高鳴っているのを感じながら歩を進めていた。この先にあるギャラリーで怜二郎はグループ展示をしていて、今日は彼が会場に終日いるらしい。会えるのは約一カ月ぶりになるのかな、そう思うと僕の足取りは夏の日差しに比例するかのように力強さを増していき、こんな暑さをものともしないのは蝉と向日葵と僕くらいに思えた。蔦の絡まった雰囲気あるアパートや小洒落たカフェを通り過ぎて、大通りから細い路地へと入りさらに緑のアーチがかかった緩い階段を登ったところにそのギャラリーはあった。
「わかりにくっ…!」
緑のトンネルからの木漏れ日をあびながら、思わず独り言のようにツッコミをいれるとなんだか笑えてくる。