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サガミ ムツキ
サガミ ムツキ
novelistID. 221
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夜渡りの蒼

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 夜に呼ばれたような気がして――なんて言ったら、絶対に笑われる。
 ――――学校でもそうだもの。
 いつもいつも、変なことを言うって皆にからかわれたり、笑われてばかりだ。
 皆は嫌いじゃないけれど、そういうときはどこかに行ってしまいたくなる。
 だって、本当にそんな感じがするのに……。
 でも、彼は笑わなかった。それどころか、眩しいものでも見るように私を見て、

「……君は感受性が強いんだね」

 ぽつりとそう言った。

「感受、性……?」

 なんだろう、それ。聞いたことはあるけど、詳しくは知らない。
 
「うーん……なんて言うんだろう……。色々なことを感じることが出来る、って言えばいいのかな?」

 腕組みをして、言葉を探りながら吐き出す彼に、

「タカンな子?」

 と聞き返した。

「ああ、それが一番近いかな」
「……じゃあ、やっぱり変なんだ……」
「? そんなことないよ?」
 
 落ち込む私に彼が不思議そうに呟く。

「だって、皆変だって言うもの……私はおかしいって」
「色々と感じることが出来るのに?」
「皆と同じじゃないもん……」

 言いながら、段々と悲しい気持ちになってくる。
 家を出るときはあんなにわくわくしてたのに……。
 後もう少しで涙が零れてしまう、というとき、頭になにかが触れた。
 ゆっくりと顔を上げると、困ったような優しい笑顔があった。

「いいこと、なんだよ?」
「そう、なの……?」
「だって、もうすぐ皆忘れてしまい始める頃だからね」
「?」
「――大人になっていくってことだよ」

 優しい笑顔がほんのわずかに影を帯びる。

「大人になったらだめなの?」
「だめじゃないけど……」

 ――忘れられるのはつらい。

 風に消されてしまいそうなほど、小さな声だった。

「? 忘れるって……」
「そろそろ、夜が終わる頃だ……帰らないと、ね」

 私の質問をはぐらかすように彼がウィンクをする。
 はっとして空を見ると、東のほうが淡い藍色になっていた。

「きゃあ!?」

 不意に体が浮き上がり、私は悲鳴を上げる。

「夢の時間は、おしまい。家まで送っていってあげる」

 ふんわりと微笑む彼の体も浮いていた。そこで私はあることに気付いた。
 私にあるものが、彼にはなかった。
 ふわふわと浮く私の足元にある、影が。

「あ、の……」
作品名:夜渡りの蒼 作家名:サガミ ムツキ