夜渡りの蒼
それは私がまだ少女だったころの話。
カーテンの隙間から見えた、いつも以上に蒼い夜に惹かれるようにそっと家を抜け出した日。
しんと静まり返った街。普段とは違う雰囲気の中、私はなにかに呼ばれるように歩き始めた。
まるで迷路みたいだ。
見慣れた住宅街を進みながらそんなことを思う。
太陽の明かりの下では皆活動的なのに、月明かりに照らされているその姿はどこか異様に見える。
まだ起きている人がいるのか、ちらちらと見かける電気と、遠くで聞こえるエンジン音が私を完全に夢の世界へとは連れて行ってはくれない。
家の林を抜けると、もうすぐ目的地が見えてくる。
この辺りでは結構大きい児童公園。
子供たちに人気があるらしく、昼間は可愛らしい声やお母さんたちでいっぱいになるところだ。
さすがにこの時間は誰もいない。
私は迷うことなく公園の中に入り、ブランコにそっと腰を下ろした。
ギィ……キィ……。
なんとなく漕いでみると、軋んだ音が公園中にこだまする。
「……なにしてんの? そんなとこで」
突然、背後から投げかけられた可愛い声に、私はびくりとして固まる。
ブランコを止めて、そぅっと振り返ると、そこには私と同い年か少し下に見える男の子が立っていた。
その子は不審げに私をじろじろ見てから、もう一度「なにしてんの?」と言った。
なんて答えたらいいかわからず黙っていると、呆れたようなため息が零された。
「子供がいる時間じゃないよね?」
「……あなただって子供じゃない」
どこか責めるような口調に、ついそう返してしまった。
一瞬、彼はきょとんとした顔をして――体を折り曲げた。
具合でも悪くなったのかと私がおろおろしていると、くっくっという笑い声が聞こえてきた。
「……笑って、るの……?」
そろそろと訊ねる私に、彼の笑い声が堪えられないといったようにはっきりしたものになる。
「ごめんごめん……まさか、そう返って来るとは思わなくて……」
笑いすぎて浮かんだ涙を拭いながら、彼が私を見てくる。――さっきみたいに、きついまなざしじゃなくて。
その変化についていけず、まばたきをするだけの私に彼がふんわりと笑う。
「こんな時間まで起きてて、大丈夫なの?」
まなざしと同じ優しい声に、今度は私が俯いてしまう。
カーテンの隙間から見えた、いつも以上に蒼い夜に惹かれるようにそっと家を抜け出した日。
しんと静まり返った街。普段とは違う雰囲気の中、私はなにかに呼ばれるように歩き始めた。
まるで迷路みたいだ。
見慣れた住宅街を進みながらそんなことを思う。
太陽の明かりの下では皆活動的なのに、月明かりに照らされているその姿はどこか異様に見える。
まだ起きている人がいるのか、ちらちらと見かける電気と、遠くで聞こえるエンジン音が私を完全に夢の世界へとは連れて行ってはくれない。
家の林を抜けると、もうすぐ目的地が見えてくる。
この辺りでは結構大きい児童公園。
子供たちに人気があるらしく、昼間は可愛らしい声やお母さんたちでいっぱいになるところだ。
さすがにこの時間は誰もいない。
私は迷うことなく公園の中に入り、ブランコにそっと腰を下ろした。
ギィ……キィ……。
なんとなく漕いでみると、軋んだ音が公園中にこだまする。
「……なにしてんの? そんなとこで」
突然、背後から投げかけられた可愛い声に、私はびくりとして固まる。
ブランコを止めて、そぅっと振り返ると、そこには私と同い年か少し下に見える男の子が立っていた。
その子は不審げに私をじろじろ見てから、もう一度「なにしてんの?」と言った。
なんて答えたらいいかわからず黙っていると、呆れたようなため息が零された。
「子供がいる時間じゃないよね?」
「……あなただって子供じゃない」
どこか責めるような口調に、ついそう返してしまった。
一瞬、彼はきょとんとした顔をして――体を折り曲げた。
具合でも悪くなったのかと私がおろおろしていると、くっくっという笑い声が聞こえてきた。
「……笑って、るの……?」
そろそろと訊ねる私に、彼の笑い声が堪えられないといったようにはっきりしたものになる。
「ごめんごめん……まさか、そう返って来るとは思わなくて……」
笑いすぎて浮かんだ涙を拭いながら、彼が私を見てくる。――さっきみたいに、きついまなざしじゃなくて。
その変化についていけず、まばたきをするだけの私に彼がふんわりと笑う。
「こんな時間まで起きてて、大丈夫なの?」
まなざしと同じ優しい声に、今度は私が俯いてしまう。