侭歩け暗野の青
8
「遅かったわね」とサイリアンタが言う。
「花火が始まってしまう」
「もう帰らなくちゃあいけない」
僕がそう言うと、彼女はスニッダウォチを見た。スニッダは相変わらず同じ顔だ。
「お婆さんのところには?」
「いいんだ、これは僕が貰うことにする」
「そう。じゃあ最初の花火だけ見てお別れしましょう」
黄色の空の辺りから長く吹いた口笛のような音が響いた。火薬の弾ける音と、金色の炎が垂れるばらばらという音で耳が一寸聞こえなくなる。途端に出来た木漏れ日の影でサイリアンタが最初のように微笑っている。
近づいてみると彼女の膚はやはり甘いにおいがした。お菓子、サブレかクッキーのような。剥き出しの白い肩に齧りついたらそのとおりの味がして、それでも彼女は微笑っていて、なぜか胸が苦しくなった。