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侭歩け暗野の青

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「これは山鳴らし。皆ここまで来る目印にするのさ」
「硬いな。薄荷みたいだ」
「これは椿だ。僕がいつか植えた」
「すごく甘いよ。顎が溶けそうだ」
「これはしなの木。子供が遊ぶよ」
「なんだか辛い。ひりひりするよ」
「さぁ着いた。中には一人で行ってくれるかい、僕は奴に嫌われてるんだ」
幅の広がった川の傍に、老婆のそれとよく似た水車小屋があった。煙突から煙が出ている。ノックしようと近づいた途端乱暴に扉が開き、背の高い男が出てきた。
「お前、それ以上近付くなよ」
男は長い銃を右手に持ってまっすぐにスニッダウォチを睨んでいる。振り返ると彼は笑って立っているままだ。
「あんたがロシュンヲガ?」
「そうだ。中に入れ。お前は来るな」
「さっきから動いてなんかいないだろう」
男はスニッダウォチに返事をしないで扉を閉めた。
小屋の中は暗く暖か過ぎる程だった。圧し掛かるように伸びるロシュンヲガの影に、僕はすっかり入ってしまった。
「ケシモドキを少し分けてもらえないか」
彼は威嚇する動物のような目で僕を見ている。
「あれは毒じゃあない。薬でもない。俺は何の執着もないが、外のあの男の思う通りになっていいのか」
「僕はここに自分で来たんだ。お使いが済んだらすぐに帰るさ。少しでいいんだ、早く帰らないとまた母さんにぶたれてしまう」
銃を脇に下ろし男は一層不機嫌な顔をして椅子に腰掛けた。扉のすぐ外から声がする。
「観念しようじゃないかロシュ、なるようにしかならないよ」
「黙れ」
男は幾度か悪態を吐いて、壁に逆さに吊るしてあった花を一房寄越した。草原の上の曇った空のような色の薄い茎には一面産毛が生えている。花弁を透かしてロシュンヲガの顔を見ると、僕を見る目は熔けたような、奇妙な色だった。
「早く行けばいい。もう会うこともないんだろう、ニベルコル」
「ありがとう。さよなら」

作品名:侭歩け暗野の青 作家名:40cry