侭歩け暗野の青
9
今はもう何も聞こえない。祭りは終わり錆付いた音楽も街の明かりも全て消えたところだ。目の前には食べ残しと、スニッダウォチが赤い草叢にいるだけだ。
「お祭りは終わりなんだね」
「そうだね」
「帰らなきゃ」
「…どこに帰るつもりだい」
スニッダウォチは初めて顔を少し歪めた。これは多分怒っている顔だと僕は思った。僕は顔についている滓を手で払って、足元を見ながら言った。素足には細かい傷がついていた。
「お母さんのところには帰れないかもしれないな」
「そう。そうだね」
最後に覚えているその人の姿は、初めて会ったときのようにだらしなく足を開いていた。確かそうだった。地面は相変わらず毒々しく赤い。スニッダは元のよくわからない笑顔で言う。
「まだお腹は減っているかい」
「うん」
僕は跪いてスニッダの足首に歯を立てる。
「それじゃあまた。次の僕がまたきみに会えるといい」
「うん」
彼はとても白くてやわらかくてあっというまに腰までなくなってしまった。お腹左手顔右手、でとうとう何もなくなってしまった。口をぬぐう間もなく地面の赤い草を食む。地面、街路樹、石畳。ロシュンヲガの家、遠くの森、真っ黒な空。山の後ろに隠れていた月はひんやりと舌の上で溶けた。小さな星のひとつまで吸い取ってしまうといよいよなにもない。僕は少し膨らんだ下腹を撫でて、どうしようもないので握っていたままのケシモドキの花弁を食んだ。目に沁みる程真っ青な花弁は何の味もなくただすべすべと冷たく、次第に視界の全部が青く失せた。次に目を開けたならスニッダくらい背が高くなりたい、と思う。鳥の声がする。