侭歩け暗野の青
6
「着いたわ。またあとで会いましょうね」
水路が本当の川になった辺りで彼女はそう言った。沓を脱ぎ、音もなく川の縁へ歩いていく背中を見ながら僕は彼女が何をするのか尋ねた。スニッダウォチはただ彼女の仕事さ構わず行こうと言った。サイリアンタは水際に腰を下ろすと手に持っていた包みをほどいた。それは上に蓋のついた球体の硝子の器で、彼女は銀の蓋を外し、懐から茶匙を出すとそれで水面をすうと掬う。黒い水面にはちらちらと白い星が映っている。茶匙はそのほんの一欠けを掬っては器に入れる。何度も何度も。僕がやっと腕を回して抱えられるくらいの大きさの器には、底に膜を張ったようにしか水は溜まらない。彼女は無心のようだった。袖が水に浸かっても名前を呼んでも聞こえない様子で、同じ顔で何度も何度も何度も。
「星を掬って入れているそうだよ」
スニッダウォチが言う。
「入れた後の星は僕には見えないが。あれを小麦粉に練りこんで僕らの身体を治すのさ」
「君たちは小麦粉で出来てるの」
「きみは違うのかい。兎に角見るのに飽きたら行こう、待っているから」
何度も何度も何度も。繰り返される動作は調子の悪い機械のようだった。僕は何にも出来ないでそこを離れた。