侭歩け暗野の青
3
男と並んで踏みつける、石畳は奇妙に温かい。僕は早足で男に追いつき尋ねた。
「ねえ今は何時だい」
「それはあまり意味がないよ」
「遅くなると叱られるんだ」
「心配要らない。街に朝は来ないからね。やあサイリアンタ」
からんころんと鈴の音を背に通り掛った影は男が挨拶をした途端白い膚の女になった。踵の高い沓を鳴らして、一抱えもある大きな包みを下げている。
「今晩はスニッダウォチ」
「今日も汲みにいくのかい、本祭の日は店も休みだろう」
「店は休みでも釜戸は燃えているもの。此方はお客人ね、今晩は」
女は薄い色の髪を垂らして微笑った。
「サイリアンタよ。お菓子屋で働いてる」
「ロシュンヲガのところに行くよ」
「なら途中まで一緒ね」
「さっきからだんまりだね」
「お腹が痛い。それにみんな僕のこと知ってるようだ」
「見ればわかるもの。痛いのはお腹が減ってるんだろう、これでもお食べよ」
男はぞんざいに路傍の木から小さな実を取って寄越した。梔子色に光っていて、口に入れるとくしゃりと溶けた。