侭歩け暗野の青
2
男は小屋の外、真っ赤な草叢と街の境目の辺りで待っている。
「やあ、どんな按配だい」
「ケシモドキを持ってこいと言われたよ」
僕は裸足で草叢に構わず入る。ちくちくと脛が痒い。些細なその葉に噛まれているような。無数の掌に爪を立てられているような。小屋の内の埃臭い空気が未だ纏わり付いてきて不快である。
「連れて来られた途端に使い走りなんて頂けない」
「連れて来られたなんて。きみが来たいと言ったのじゃないか」
そうだったろうか。男は終始よくわからない笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。肩の向うで木々と円い黄色な提灯が揺れている。
「あの灯りはなに」
「雪洞だ。星の翳る時分だから、お月さまの祭りさ。しかし弱ったね、この頃山には登れない」
成程雪洞は視界の限り一列に連なって残像の様だ。葡萄色の石畳を行き交う人影も絶え間ない。男がいかにも大事無いような口調で喋っているのを聞き逃していると、往来のその影から声がする。
「ロシュンヲガが持っているよ」
「奴が一人で持っているよ」
「客人なら奴も一房寄越すかもしれない」
「スニッダウォチ、伴ってやればいい」
顔の判じない漆黒のまま過ぎ去っていく影らを僕は睨んだ。
「五月蠅い奴らだ。挨拶もなしに」
「まぁまぁここではこういうものだよ。ではきみ、奴のところまで散歩の用意はいいかい」
「どうだろう。した事がない」
「なに脚が二本あればいいさ。丁度この灯りに沿って行けばいいだろう。灯りは川に沿っているから。あれは森の外れに居るよ」