インビンシブル<Invincible.#1-1(2)>
「グランツ曹長、機体の調子はどうか?」
「問題ありません。すぐにも出られます」
機付長であるグランツ曹長に機体の状態を尋ね、
メカニズムの事に関して二、三やりとりをした後、ヴァルバスは
K・ジャッカルのコックピットに身を滑らせた。
正念場だ。一秒でも長く、ノーチラスの連中をこの場に
釘付けにしておかなければならない。
おあつらえ向きというべきか、機体の使用許可が出た時点で、
機付班がアイドリングを済ませてくれていた。
時間のかかるOS起動の間を待たされることもなく、機体はすぐにでも
出撃可能な状態だった。お膳立ては万端。
あとは、舞台へ繰り出すだけだ。
K・ジャッカルはハンガーユニットの拘束具を解除し、射出カタパルトの
エントリーへと向かった。
ミュートスのK・キマイラと、待機中だったカリス・ラッセン中尉の乗る
K・ウルフが出撃するため、カタパルトのエントリーへと足を運ぶ姿が、
モニターの端に映っていたのが目に止まった。
カタパルトのエントリーに機体を固定したK・ジャッカルは、
発進待機状態に入った。
「ヴァルバス・アルミドル。K・ジャッカル、出撃する」
電磁コーティングが機体全体を包みこみ、青白く染まった
数十トンの躯体に揚力が生じた。
リニアカタパルトは超伝導効果により、相互の物体が持つ
磁力の反発作用を利用して、物体を加速し射出する。
シグナルビーコンのカウントダウンが始まり――
カウント3・2・・・1。
デッキ上で機体誘導を担当するLSO要員(射出・着艦装置士官)の
ゴーサインと同時に0を示した。
亜音速域相当のスピードでカタパルトから打ち出された
K・ジャッカルの姿は、黒い機体色と相まって、
黒塗りの鏃(やじり)を思わせる。
機械仕掛けの黒い凶獣達は、造られる以前より定められていた
自身の使命を果たすべく空へと解き放たれた。
彼らが成すべき使命とは、暴虐の限りを尽くし、
圧倒的な力を以って、敵を粉砕し葬り去ることであった。
作品名:インビンシブル<Invincible.#1-1(2)> 作家名:ミムロ コトナリ