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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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インビンシブル<Invincible.#1-1(2)>

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 USVがルィアールの市場介入に意義を申し立て、
憤慨するのは当然のなりゆきと言えた。
USVはナタルジャ経済連盟の多くの国々をその影響下におき
同盟国を多数抱えている。
なにより、ラダム大陸はUSVにとって鉱物資源採掘事業の要衝だ。
USVはこの土地から工業の根幹を支える、レアメタルや希土類を産出している。

 その地盤を確固たるものにする為、USVは当事国に自国の資本を送りこみ、
政府に多額の貸付を行っている債権国だ。
しかもそれだけではなく、現地の企業を買収合併し自国企業の
コントロール下に置き、現地の雇用をもっとも多く獲得している。
つまりは、USV資本による経済依存体制を作り上げているというわけだ。
これを見る限り、USVはソフト面においてナタルジャを
ほぼ掌握しており、実効支配を成しているといっても過言ではない。

 その現状を脱するため、危機を抱いたナタルジャの自主独立と
隆盛強国をスローガンに掲げる右派政党が国民の支持を得て
政権を握ったことを契機に、OSUCとの海洋問題の
解決と第二次産業強化による富国強兵を視野に入れた政策の
一環として、ルィアールと手を組もうと考えたのだ。

 だが、それはUSVとしては面白くない事態であった。
ナタルジャが、ルィアールの高い技術力と巨額の資本を導入し、
国力を強化させていくのは好ましくない。
今日まで積み上げたUSVの努力が水泡に帰してしまうからだ。
そうなれば、USVはナタルジャから手を引かざるを得なくなり、
ラダム大陸での地下資源確保のルートを絶たれるばかりか、
ガレフ大陸と南方海洋諸国の足がかりとなる地盤をも失うことになる。
ラダム大陸からの撤退と資源採掘利権を失うことによる損失を被るのは、
USVとしては国益上どうしても避けたい事態だった。
そのためUSVは、提携条約が締結されたことを受けて、
ナタルジャ経済連盟に対し異議を唱え反発の姿勢をみせたのだ。
 
 これは、どうということはない、単純な国益をめぐる
国家間の紛争問題なのである。
ナタルジャ経済連盟の条約締結に対して、撤回を要求するUSV。
それを頑として受け付けない、ナタルジャ経済連盟の盟主
であるアラフマード首長国。
両者の意見は折り合うことなく、平行線を辿った。
 互いの国で、世論を形成するマスコミやネチズンは
相手国に対する反感と批判を募らせた。

 それだけならまだよかった。
銃のセイフティは外されたものの、まだ撃鉄を起こす
段階には至っていない。
だが、その行程をすっとばして、今すぐトリガーに指をかけ
「撃て」と促す者たちがいた。

 権益に固執するUSVの財閥系は政府に圧力をかけ煽動し、
会戦を要求して来た。
彼らは、戦争による一時的な経済損失よりも、権益構造の
崩壊を避けたかったのだ。
 権力者達が事態収拾に乗り出したことで、両国間で一気に
紛争勃発の機運が高まる。

 紛争回避の為、国際調停機関
”APU(蒼星恒久平和維持機構連盟)”理事長国である
エアリアル皇国は代理調停役として両国の間に介入。
アラフマードとUSVの間をとりもって協議の席を設けるが、
議論はやはり明白な回答を導きだせぬまま平行線に終わった。

 APUはUSVに対し、
『両国には、対話による解決を望む。
あくまでもUSVがアラフマードに対し紛争を仕掛けるのであれば、
国際法規定に則り、APUは状況に対し武力抑止権を行使することを宣告する』
と勧告したが、権力者達の傀儡であるUSV政府には通じる由もなかった。
 あくまでナタルジャとルィアールの提携に反対するUSVは、
アラフマードに対し宣戦布告。宣戦布告から、24時間後の現在。
とうとう開戦と相成ったわけである。

 今回の戦争は、国益を優先するUSVの政策の元、始まったものだが、
その根底には財界の思惟が強く働いている。
もちろん彼らと結びついている議員達の、利害の一致という思惑もある。
 昨今、USVの政界は、資本家達の意向を受けて彼らの目的を達成、
追求するための傀儡と化している。
 今のUSVは、民族の誇りを軽んじ、経済の利潤と権益拡充の為、
戦争を喚起している。
愚かな行いだと世界から非難されても文句は言えまい。

 人類は戦争を経るごとに意識の変革を行い、進化の停滞した
肉体に代わり、精神を高め進化させてきた。
精神の進化は、”神化”への道。
不完全な存在であるはずの人間が、より完璧な存在に
昇華しようという志が今日まで人類を生きながらえさせてきた。

 思想抜きで経済のためだけに行われる戦争は、
人の精神の”神化”を停滞させ未来を閉塞させる行為に他ならない。
 USVは、自らの正当性を示すため色々と理屈をこねて
”正義”のプロパガンダを展開してはいるが、よその国の目から見て
それは欺瞞と打算に満ち溢れた詭弁であることは明白。

 国家はメディアを操り、ハードとソフト一丸となって世論操作を行い、
国が行っていることに”正義”と正当性”があると周知させることに
血道をあげている。
 国家として、その行いと姿勢は断然正しい。
国家という民族共同体において、国民のナショナリズムを鼓舞し国家を
強化し存続させるためには、そういった類のプロパガンダが必要だからだ。
されど、USVが世界で行っていることは、純然な他民族への侵略行為だ。
あまりにクレバー過ぎて”正義”などという言葉とは程遠い。
 それでも、国民が幸福を享受するためには、容認せねばならない
”嘘”であり”必要悪”なのだ。

 幸福の全体量は限られている。
増やすことができないのなら、奪いあうしかない。
それは、覆しようのない事実で、弱肉強食である世界の不文律だった。