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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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インビンシブル<Invincible.#1-1(2)>

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(グァマ天文台標準時0856)

「バリー、たのしそうね?」
ブリッジに繋がる隔壁が閉まり、通路に出たところで聞きなれた
ハスキーな女性の声に呼びとめられた。
ヴァルバスがそれに気がついて振り返るが、そこには声の主はいない。
不思議がって眉をひそめていると、不意を突くように、
反対の方からポンと肩を叩かれた。
振り返ると、そこには黒い長髪の端麗な姿の女性士官がいた。

 AA戦術大隊副隊長、ミュートス・ヘルキィル大尉。
彼女とはハイスクールで知り合ってから、それ以来の腐れ縁だ。
 卒業後、進学した国防大学時代から現在に至るまで軍でヴァルバス
のことを一番よく知る、旧知の間柄だった。
ミュートスとはつかず離れずと言った具合で、友達以上恋人未満。
一時、それ以上の関係になったこともあったが、結局は今の状態に
落ち着いた次第だ。

 ミュートスは、前ぞろいの黒髪をたくしあげ、
悪戯っぽく笑みを浮かべてみせた。
子供のように無邪気で屈託がなく、しかしどこか艶な色香を感じ
させる笑顔だった。
「ふぅん、もしかして?」
「ああ、察しのとおりだ。例の『新型』、親父から使用許可が降りたぞ」
ミュートスは待ってましたとばかりに、嬉しそうにして
両手を合わせて叩いた。
「お、本当?相手はあのノーチラス、遠慮はいらなそうね。
私がんばっちゃいますよ、中佐殿。」
ふふふと、イタズラっぽい笑みはそのまま絶やさず、おどけた調子で言う。
とたんに、ヴァルバスの背中に寒気が走った。
「中佐殿はカンベンしてくれ。キミに言われると、
むず痒くてたまらん」

 ヴァルバスは、この古馴染みにかしこまった態度で接されるのが、
大変苦手だった。
ミュートスは、いつもおどけた調子でのらりくらり振舞う、
底意の見えない女だ。
そんな彼女に、”中佐殿”などと言われるだけで体中から鳥肌が
立つほど、ヴァルバスは薄気味悪い気分になった。

 「あらそう?それじゃぁ、大隊長殿のほうがいいのかな」
「あぁ・・・もう、どっちでも好きにしてくれ」
それを聞いてうんざりした様子でヴァルバスは首を振ってうなだれた。
その様子を見てミュートスはうしうしと笑う。
 彼女はいたずら好きな性格で、ことあるごとに人を
面白半分にからかうクセがある。
同僚、上官わけ隔てなく冗談半分にからかうので
「小悪魔(リトルデビル)」というアダ名までついている始末だ。
 ヴァルバスは学生時代から彼女の被害にあっていたが、
軍に入り上司・部下の関係になった今でもそれは変わらない。
学生時代、当初はしつこく文句を言ったものだが、今となっては
仕方ないと諦めている。

 パイロットスーツに着替え、機体格納庫区画へとやってきた二人は、
タラップを駆け上がりキャットウォークへと踊り出た。
エリアの上層部であるそこからは、ハンガー全体の光景を
一望することができた。

 第一格納庫と銘打たれたここは、18機のARを格納可能な
ハンガーが設置されている。
今はほとんどの機体が出撃しているため、殆んどのハンガーが
空になっており、広い空間はどこか空寂しさを感じさせた。
その中には、損傷を受けて帰還してきた機体も2、3ほど見られた。

 キャットウォークの眼下から伺える整備ブースでは、
技術兵たちが作業に追われている姿が見え隠れし、彼らのがなり声と
工作器具の作業音がやかましく響いている。
 ヴァルバスはずらりと並んだハンガーに固定されているARを見渡した。
黒を基調とした黄金色のラインが縁取りに施された中世西洋の鎧を
連想させる外部装甲をまとったAR。
USV空軍に現在もっとも多く配備されているAA、
新第2世代型AR”K・ウルフ”だ。
この慣れ親しんだ機体も、乗る機会が今後めっきり減るのだと思うと
少々感慨深い気持ちになった。

 さらに格納庫の奥へと足を進めた。
そこには、話にあがっていた例の機体があった。
ミュートスは、関心したように見上げて言った。
「へぇ、これが。随分とガタイのいい子ね。
で、そのとなりの華奢な奴が私の機体ってわけね」
 黒を基調としたデザインはK・ウルフと共通だが、
縁取りのラインがプラチナに彩られている。
そしてK・ウルフとの決定的な違いはその体格差。
全長18m級の躯体を持つK・ウルフよりも明らかに一回り大きい。
約20m程はあるだろうか。新型ゆえ、最新のアビオニクスと、
高出力のジェネレーター、推進機関が搭載されているため、
躯体のスケールアップが図られていると見える。
 その巨大さは、K・ウルフが騎士ならば、この機体は重装甲の
甲冑をまっとた重装騎兵と言った所だろう。

 その隣には、もう一機の新型の姿。
ミュートスが”華奢な奴”だと言ったAR。
カラーデザインは前述の新型機と同じではあるが、その躯体は
K・ウルフを一回り小さくした感じだ。繊細でスマートなデザインから、
女性的な印象を受ける。
軽装騎兵といった趣で、背部には二基の可変型ウィングがマットされて
いるのが特徴的なデザインのARだった。

「K-NX7500 Knight Jackal<K・ジャッカル>。
その支援機、K-NX7600 Knight kimaira<K・キマイラ>。
次期主力機の先行試作型だそうだ」
「新造の試作機を回してくれるなんて、上も随分と太っ腹じゃない」
ミュートスは、黒塗りの機体を仰ぎみて皮肉げに言った。
 「国防総省の高官たちが、アガレス・ドミトーリ社と
”親密”にしてるからだろうよ。
造ったそばからテストする機会ができたんで、
実戦のデータ採取と次期主力機の売り込みがしたくて、
お偉方に”菓子折り”包んで頼み込んだのさ」
「ああ、みんな大好き”おだんごう”って奴ね。
けれど、その味までは確かめなかったのかしら」
 ああ、毒かもわからぬのにな、と言いそうになって
ヴァルバスは言葉を口の中で噛み潰した。
 ヴァルバスは今回の事態がどのような背景を基に起こったのか
諮詢(しじゅん)を巡らした。