インビンシブル<Invincible.#1-1(2)>
「地力に置いては向こうに水を分けられるか」
アルミラージュのブリッジで、AA隊の指揮を執っている青年将校。
アルミラージュ隷下にある実働部隊、USV軍AA戦術大隊隊長
『ヴァルバス・アルミドル』中佐は、自軍が押されている現在の
戦況を見て、感想をもらした。
『アルミドル』の姓をもつこの男、ヴァルバス・アルミドルは、
アルミラージュ艦長ガリゥ・アルミドル少将の実子であった。
連邦国防大学を主席で卒業。
キャリアエリートの道を歩み、幾多の戦地で勲功を上げ、
若干27歳にして中佐に上り詰めた。
USV空軍を代表する、機械化機動部隊”AA戦術大隊”の隊長に
任命された若き才媛である。
(こちらが現状を維持できるのもそろそろ限界か・・・)
「閣下」
「なんだ、中佐」
「敵の中に、単機で突出した機体がいます。その闘いぶりを見て、
味方の動きが鈍っていると感じますが」
「相手はエアリアル皇国軍でも屈指の実働隊だ。
そういう者がいるのも納得できる。
精鋭ぞろいの戦術大隊といえども、苦戦するのは当然だろう」
ガリゥは嘲笑的に笑みを浮かべ、口端を吊り上げた。
味方に対し過少な評価だと思うだろうが、それはガリゥ自身、
事実に則った評価を下したまでのこと。
相手はエアリアル皇国軍最強と名高い実働隊、ノーチラス。
実働隊とは、常備軍とは異なる独立した指揮権限を持つ特殊部隊であり、
独自の判断で即時状況に対応する部隊のことを指す。
軍組織内に置いて、最高峰の錬度を誇る兵士達が集まった
プロフェッショナルの集団だ。
アルミラージュがその隷下に抱える、対機械化部隊戦に特化した
機動特殊部隊であるAA戦術大隊もまた、精鋭を選りすぐり集めた
部隊であり、負けずとも劣らないプロフェッショナルの集団である。
兵士の錬度というものは常日ごろの訓練時間と、
訓練プログラムが物を言う。
APU理事長国であるエアリアル皇国は、国際法を遵守し他国に
対し法を執行するロールモデルとして、その面ではインパルスの
どの国々よりも質が高く、飛行時間の長い訓練を課していると聞く。
なにより、APUから世界各地の騒乱鎮圧と治安警備を委任されている
エアリアル皇国軍は実戦経験が豊富だ。
この二点を見るだけで、エアリアル皇国軍が、どの国の軍隊より
も質に置いて優れていることは明白。
それでも、ガリゥが強気の構えを崩さないのは、ノーチラスを
相手にしてさえ戦局を覆せることが可能な
取って置きの”虎の子”がいたからだった。
「策があるのか?」
「奇策は不要です。単純な”力量”で片付けられます。
私が出て力を見せれば、敵の突出した戦力はこちらに目を
向けてくるでしょう。私の隊が敵の主力を引きつけている間に、
閣下には状況を整えて頂きたいのです。
その為に、”アレ”の使用許可を頂きたいと存じます」
「実直な、お前らしい作戦だ。よかろう、使用許可を出す」
「ありがとうございます。我々、”戦術大隊”が、アルミラージュを
無傷でラサンバニまでお連れしましょう」
「たのもしい限りだな。頼むぞ中佐」
「はっ」
ヴァルバスはガリゥに向かって敬礼すると、
颯爽と身を翻し、ブリッジを後にした。
ヴァルバス・アルミドル。
彼こそ、ラック・キスキンスやジグ・ギャッバマンらと
比較しても遅れを取らないと評されるAAパイロットであり、
USVのエース達を束ねるリーダーであった。
作品名:インビンシブル<Invincible.#1-1(2)> 作家名:ミムロ コトナリ