インビンシブル<Invincible.#1-1(2)>
(グアマ天文台標準時0851)
戦闘開始から、約6分後。
さすがは、インパルスにおいて屈指と目される実働部隊。
古強者揃いと言われた第6空戦連隊<ノーチラス>だ。
こちらの被害は小破2・大破2。対してあちらは未だに損害0。
手ごわい相手だ。
しかし、戦線は自分の予測ほど後退していないとみえる。
こちらとしては、友軍であるディスカッションをノーチラスが
追撃できない程、この空域から遠ざけることさえできればそれでいい。
この戦闘の目的は、ノーチラスを足止めするための時間稼ぎ。
これが、敵部隊の潜在的な戦力差(兵員の質)がこちらよりも上で、
予測を超える早さでこちらのAA部隊を駆逐していった場合、
アルミラージュ自身が危険にさらされ、逆に身の保全を憂慮
しなければいけなくなる。
最悪、アルミラージュがノーチラスに拿捕されたとしても、
ディスカッションとパミルクォークの二個連隊だけでもラサンバニ市を
攻略することは可能だが、制圧後の事後処理を考えると、
駐留と侵攻部隊の分割にまで手が回らない。
ラサンバニ市攻略に置いては三個連隊以上を動員、または一個旅団程度の
戦力を投入することがコスト的にも戦略的にも、その後の部隊運用設計に
置いても優位に働くと、国防総省の参謀部からシミュレート結果が出ている。
作戦プランはこうだ。
ラサンバニ制圧後、パミルクォークを一時的に駐留させる。
その後、本隊であるアルミラージュとディスカッションは、
陣地構築と補給が完了次第、駐留する後続の代替部隊の到着を
またず首都ザハークへと向けて即時進軍する予定だ。
その後、本国やグァマに駐留する部隊が周辺軍事拠点を制圧し、
外堀を埋めていく。
電撃的作戦で部隊を展開し、敵の喉元に剣を
突きつけ早期に決着をつける。
この戦いは、経済的損失を避けるためではない。
USVの力を世界に証明するためだ。
戦争が元で、株式やコモデティの価値が下落することなど
USVにとっては毛筋ほども痛くは無い。
その程度のことでは、わが国の竜骨にひびが入ることはない。
一時的な経済損失など取るに足らない。
象がアリに噛まれて痛みを感じるだろうか。
本国の重鎮達は利権構造の維持と永続を望んでいる。
それが国益につながることを理解しているのなら、
我が国は未来永劫、世界で最強のただ一つの国家でいられるだろう。
ならば、自分は自らに課せられた役割を果たさなければならない。
イレギュラーに対して想像力を働かせ、それを未然に防ぎ、
作戦を成功に導くのが自分の役目だ。
ガリゥ・アルミドルという男は、リスクマネジメントに
一日の長を持つ人物である。
リカバリーという行為は、視点を局地的かつ近視眼的にさせ、
一時的に全体を見る目を喪失させる危険性を孕んでいる。
計画の達成リスクを増大させる危険があるものであるのは間違いない。
その反面、リカバリーで費やした危険に対する努力とノウハウは、
後において、成功を呼び起こす為の最良の糧となる。
リスク管理スキルとは、事態に際してどのようなイレギュラーが
起こるかを想定する想像力と対応力のことを言う。
大抵は、その都度、失敗とリカバリーの体験から、対応力を磨き、
想像力を養っていくものである。
そこを行くとガリゥは、リカバリーの経験から都度学ぶのではなく、
先人の失敗体験と自身の想像力から学び、数少ない
失敗で成功を収めてきた。
天才的とも言える、ガリゥのリスク管理スキルが、幾多の作戦を
成功に導き、今日の地位をもたらした。
リスクマネジメントのスキルは、固定観念に囚われない
自由な発想をするには大変役に立った。
個人を型に嵌め、行動の画一化を強制する軍隊において、
こうしたビジネス学の論旨を実践するガリゥは変わりダネであった。
USV最高学府と言われるエルマーハイト工科専修大学を卒業し、
大手工業商社アイテックスに就職。
4年間勤めた後、退職。軍に志願した。
ガリゥは社内において、将来の幹部候補と言われていたにも関わらず、
その道を選ばなかった。
エリート商社マンであった彼が、約束された将来を
手放し軍人となった理由はなんだったのであろうか。
その問いに関して、彼はこう答える。
『一つは愛国心。もう一つは、証明だ』
彼は、自分の持論と理論が場所を選ばずに成功を収めることが
できるかどうか、それを証明したかったのだという。
その目論見は今のところは成功しているといえる。
現在のこの状況と、自らの部隊が持つ人材と装備、
将来のビジョンを見据えた上でガリゥは答えを導き出した。
イマジネーションの怪人は確信を得ていた。
----私の目論見は完遂される、と。
作品名:インビンシブル<Invincible.#1-1(2)> 作家名:ミムロ コトナリ