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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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インビンシブル<Invincible.#1-1(2)>

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 エリシア海を横断する二隻の航空重巡洋母艦。
USV空軍第11空戦連隊ディスカッション、
USV空軍第15空戦連隊アルミラージュ。
 国力を世界に掲揚し、力を知らしめる手段を国家から任され、
使命とする彼らは、
その尖兵であり、力の体現者であった。
 アラフマードの沿岸軍事拠点である港湾都市、ラサンバニを
制圧するのが彼らの今次任務である。
 順調かと思われた行軍は、アラフマードの領空にさしかかろう
という所で一時の中断を余儀なくされた。

 その海域には、伏兵がいた。
開戦の報せを受けて、APU議長国であるエアリアル皇国は、
第6空戦連隊ノーチラス、同隊の名を冠する艦を
アラフマードへと派遣していた。
哨戒任務に当たっていたノーチラスは、海中に潜行し息を潜め、
こちらを待ち備えていたのだ。
 エアリアル皇国軍の戦艦ノーチラスは戦略運用航空空母戦艦で
あると同時に強襲潜水艦としての機能をも備えている。
海中のささいな雑音と騒音を拾い集め、敵の位置を探りあてる
機能に特化している潜水艦準拠の索敵性能を持つノーチラスの
”耳”は確かだった。

 部隊の名を冠し同義とするUSVの最新戦艦、<まやかし兎>の
コードネームを持つアルミラージュは、ジャミング機能に
特化しており、電子戦装備を活かした電撃戦を得意としている。
 物理的には可視光を遮り船体の姿を眩ませる
透過ステルス機能をはじめ、放熱・対電磁波対策を念頭に置いた
機体設計が成されている。
エーテルドライブを用いた静粛航空機能は、現行の
集音解析システムをいとも欺く。
それら、多様に高度なジャミングシステムが、
この艦を不可視の存在たらしめていた。
 飛行によって生じるエンジン音や空気の振動を、周囲の
振動周波数に合わせてかき消す消音機能を備えるアルミラージュは
ノーチラスの”耳”を完全に騙していた。
 が、アルミラージュの後を追って飛ぶディスカッションは
それほど高度なステルス性能を持ってもいないし、静粛性もずっと劣る。
ノーチラスに存在を暴露されてしまうのは自明の理だった。

 敵の武装有効距離圏内に進入してしまい、ロックオンされた
ことを告げる警報音がブリッジに鳴り響いた。
 ”ファーストアタック、ファーストキル”。
対AA戦や対艦戦に限ったことではないが、現代の高度なまでに
デジタル化された戦闘というのは、相手を先にレーダーに捉え
発見し武装の有効距離圏内に納め、
先手を打ち撃破した方が一方的に勝利を収める。
素人目に”敵を補足”するという行為は、
戦闘に置いて一見地味な要素と思われるだろうが、
これが近代戦闘に置いては重要なファクターなのである。

 ノーチラスは、こちらを補足した段階で先手を取れたのにも
関わらず攻撃を仕掛けようとはしてこなかった。
 その直後、
『貴艦はアラフマードの領空進入のコースを取っている。
警告に従い退去せよ』
といった意味合いの打電文がノーチラスから送られてきた。
どうやら、あちらから先んじて手を出す意志はないようだが、
こちらが指示に背いた場合はその限りではないだろう。

 ディスカッションを伴っている分、二対一で数的に
おいては有利な状況ではある。
こちらが物量をもってすれば、制圧することも可能だろうが、
コストベネフィットの面から見て、ここで無駄な時間と
戦力を浪費するわけには行かない。

 現在の第一優先事項はラサンバニ市の制圧を果たすことであり、
ノーチラスとの交戦ではない。
ここは、ディスカッションにはあえて先行してもらい、
作戦を実行してもらったほうが得策。
このアルミラージュは必要最小限の時間、ノーチラスを引き付け
この場に繋ぎ止めておき、囮役に徹するのが賢明だろう。
いざとなれば、この艦のステルス機能を最大限活用し適当な
ところで煙に巻けばいい。

 そう判断したアルミラージュ艦長ガリゥ・アルミドル少将は、
ディスカッション艦長キース・ガレイド大佐にその旨を伝えるべく、
通信回線を開くようオペレーターに指示をだした。
「ガレイド。ここはアルミラージュが引き受ける。
貴艦は、先行しろ」
『アルミラージュが囮役をなさると?』
キースはガリゥの元直属の部下。
長年の部下であったキースは、ガリゥの考えを早くも察したようだ。
ガリゥも、上官の命令を遵守し、仕事を確実にこなすキースの
手腕と人柄には信頼を寄せている。
この二人の間に多くの言葉は不要。
百の言葉よりも、態度を示すだけで充分だった。
「そうだ。適当に連中の相手をしてからそちらへ向かう。
そう手間はとらん」
『わかりました。では、向こうでお待ちしております』
「了解だ」
それだけのやりとりをして、通信を終えた。

 ディスカッションは、ガリゥの指示どおり、現空域からの離脱を開始した。
その姿を見届けることもなく、ガリゥはクルーに指示を飛ばし始めた。
「第一級戦闘配備。火気管制部署は攻撃用意。
一番から五番まで、潜行対艦ミサイル<ディープアンカー>装填」
『アイアイサー。総員第一戦闘配備。火気管制部署、攻撃用意。』
『火器管制<ファイコン>了解。一番から五番まで、
対艦ミサイル<ディープアンカー>装填。発射準備完了』
矢継ぎ早に、各部署から命令の復唱と報告が行われた。
 口早に指示を下すガリゥのその立ち居振る舞いは、
オーケストラを束ねる指揮者のそれを連想させた。
点在する個は指揮者によって調律され、旋律となる。
第15空戦連隊アルミラージュは一個の統一された
システムへと姿を変えた。
『AA隊発進準備よろし。いつでもどうぞ』
「<ディープアンカー>発射」
『アイサー。<ディープアンカー>発射』
「AA隊1~18番機まで、昇順出撃」
『アイサー。AA隊、1~18番機まで昇順出撃』
「ディスカッションを離脱させるのに充分な時間を稼ぎ、
ノーチラスをこの場に押さえつける。
プランデルタを発令。
機動部隊は2小隊ずつユニットを組み、敵艦を中心に
中央、右翼、左翼から攻め、敵AA部隊を分断せよ。
その間隙を縫い、敵旗艦に攻撃を加え、敵AA部隊の注意を引きつけろ」