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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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インビンシブル<Invincible.#1-1(1)>

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#1 空を飛んだ少年の話

-エリシア海 上空-(グァマ天文台標準時0850)

 突き抜けるような青空、海の底まで見通せるかのような澄み渡った瑪瑙色の海原。
恒星アークトゥルスの光を浴びて、きらびやかな光を放つ海洋の上空では、
飛行機雲にも似た白銀色の光の尾が幾重にも煌いていた。
 それらは複雑に絡み交じり合い、時に美しい弧を描いたかと思うと、
弱々しく細く途切れ、一閃の光となり虚空へと消えていった。

 AirealAremed(エリアルアームド)、通称AA(ダブルエー)。
この星<インパルス>で培われてきた航空技術体系の現時点での最終解。
人型のAR(エアライダー)と、航空機型のAS(エアストライカー)を指ししめす
主空戦型機動兵装の総称である。
 中でも人型のARは、航空機型のASにはない独特の機動(マニューバ)を行う。
大気中のリフレクションスノーと結合することで、物体を宙に浮かし推進力を
生み出す特性を持つ浮遊鉱石<フローティングメタル>を加工した駆動装置。
曰く、リフレクションホイールにより、まるで氷上を滑るスピードスケーター
のように空を軽快に走り舞う。
その動きはXスポーツさながら空をスピーディーに”滑走”することから
ARの通称は由来していた。
 
 三機のARがトライアングルの陣形を組み、規則正しくも画一化された機動で、
空を駆け抜けていく。
その一糸乱れぬ整然とした隊列飛行は騎兵隊の行進のよう。
AAは三位一組(スリーマンセル)が戦術運用における
最小構成単位と定められている。
 エリシア海洋上の空を飛び、駆けているAR達は敵味方の区別なく
運用原則の定石(セオリー)どおりスリーマンセルの形を組み
編隊飛行を演じていた。

            *            

 インパルスの碧玉といわれるエリシア海。
恒星アークトゥルスの日差しが海原の水面を煌びやかに彩り、輝かせている。
 絶好のレジャー日和ではあるが、悲しきかな今は任務の最中で戦闘中。
”クソッタレ”USV野郎どもの相手をしていると来たもんだ。
あの国の連中は、毎度いらん騒ぎの種をまいてくれる。
まことこの上なく迷惑な連中だ。
USVさえいなければインパルスの6割以上の紛争は消えてなくなると
さえ言われているほどだ。
 楽しくも下らないこの”戦争ゴッコ”のお蔭で世界は
好景気を享受できているが
その上前の多くを”武器屋”と”金融屋”が撥ねて行くのには正直不満がある。
この”戦争ゴッコ”の利益は殆んどそいつらの口座と財布に
流れて行く仕組みになっているからだ。
 現場では、”祖国の為”に命を張って兵士達は戦っていると言うのに、
奴らは空調の効いた快適なオフィスでモニターごしに”現場”を眺めて、
大金を片手に左団扇と来たものだ。
 AAパイロットは、今の時世にあってはスポーツ選手みたいなもので、
エース格などは映画スター級の扱いだ。
人気者扱いされて嬉しい奴もいるだろうが、俺はそれほどおめでたくはない。
 パイロット達には、給与の他にも功労手当として敵機を撃墜したり、
作戦時に”ウケのいい”立ち回りを演じることで出資者である
スポンサーから報奨金が支払われる。
システムとしては、ベースボールの選手がヒットやホームランを
打った時にギャランティが生じるのと似たようなものだ。
一見、稼ぎが良さそうに見えるが命をつねに天秤に掛けている兵士にとって、
リスクに見合った額とはとても言えない。
 エースの中には、軍を辞めてPMC(民間軍事会社)に入ったり傭兵になる者もいる。
企業や政府と契約を結んで正規軍に出向し作戦に参加して多額の報酬を
得てはいるが、国の保護なしに戦争をするというのはとても利口とは言えない。
傭兵は民間人扱いで正規の軍人と違って捕虜扱いなどの
国際条約や戦争協定が適用されないからだ。
 名前の売れているスター的なエースは民間に降りてフリーライター
になったり、タレント活動を行っている者もいる。
CMに起用されたりメディアに露出したりと羽振りがいいらしい。
公務員は規定により民間での所得が生じる副業や営利活動は禁止されているが
傭兵になればその縛りもなくなる。
軍を辞めたほうが、自由に自分の名を使って商売ができるというわけだ。
けども、そんな人間はほんの塩の一摘み程度で、全てのエースが億万長者に
なれる訳ではない。
 この”戦争ゴッコ”ビジネスに於いて一等リスクを背負わされているのは
現場で作戦を実行している兵士達だ。
リスクの高い所を俺たちが背負っているにも関わらず金融屋や武器商を初めとする
ホワイトカラー達は危険を冒さず大金を手にしている。
ビジネスモデルの上にいる連中が富を寡占するのはいつものことだが、
この商売はあまりにもアンモラルで下品だ。
国の為に戦っている軍人の命と誇りを金に換算し、売り買いする
このやりかたには納得がいかない。
今は俺も仕方なく踊らされているが、いつか見てろよコノヤロウ。

 ”彼”の独白を遮るように、コックピット内に通信キャッチ音が響いた。
誰かと思い、ビューモニター上にポップされた通信チャンネルの
ウィンドウタブを開く。
同僚の、シュライク・メディカ大尉からだった。
「こちらダリア2。うちの隊長が、たったいま撃墜スコアを更新。
この調子だと今週の撃墜王は我らが隊長、ラック・キスキンス中佐に決まりですね。
ジグ副長、週前半に稼いだスコアもそろそろ巻き返されそうですよ。心情はいかがです」
少しからかうようなシュライクの口ぶりにむっとはしたが、
ここはクールを装って切り返すことにした。
「こちらエイザス1。ふいてろよシュライク。いっとくがトータルじゃ俺の方が
断然リードしてんだ。トップエースの座はラックに譲っちゃいるが
撃墜王のタイトルはこの俺、ジグ・ギャッバマンのもんだぜ」
エアリアル皇国軍にその人ありといわれる生ける伝説。
”撃墜王”の二つ名を持つ男、ジグ・ギャッバマン。
軍に籍を置き、18年。
現場主義がモットーのAAパイロット。
実戦にて撃墜した数、318機。
最短記録では、1日で13機。
第6空戦連隊ノーチラス、AA隊副隊長であるジグは
インファイトにおいて無類の強さを誇るエースの一人であった。

コックピットに警告音。
ジグのAR『リィオン』を狙って、上後方11時方向から
アサルトライフルの斉射が降り注いだ。
リィオンは華麗なバレルロールを披露し、なんなく銃撃を回避<ブレイク>。
回避後、スロットル全開。
急加速をかけ、敵機よりもわずかに高く上昇。
そして、反転。
そうすると、見事相手の後姿を拝む位置を取ることが出来た。

 戦闘機同士のドックファイトで、敵機に背後を取られた状況下において、
逆に背後へ回りこみ位置を入れ替える。
俗にオーバーシュートと言われる機動テクニック。
AAの前身である戦闘機でも有効だった機動テクだが、
その有用性は筐体が変わろうとも通じるものがある。

 背中は取った。
ケツはいただき。
突出して来たこのバカどうやって料理してやろうか。
AAは常にスリーマンセルで行動し、互いの行動を
フォローしあうのが戦闘での原則。