インビンシブル<Invincible.#1-1(1)>
正と奇、陰と陽、虚と実。
人間というものは、表裏ある矛盾を抱えた存在である。
潔癖と美徳を表では語るも、その裏では官能と猥褻を好む。
娯楽と享楽の大部分というのは、エロティシズムとグロテスクで出来ている。
人の身である以上、そうしたものに好奇心を抱かずにはいられない。
見たくないと口で嘯いても、つい片目を開けて見てしまうのが人間の性というものだ。
そうした好奇心の対象として、武力を用いた目に見えて判りやすい
”激しい戦争”はうってつけだった。
傍観する物には刺激を与え、それを繰る者達には利益を享受させる。
需給の観点から、両者の利害は一致していた。
こうして、その星では大衆娯楽的な経済行為として、戦争は刺激的で巨大な
ショウビジネスへと姿を変えた。
軍需産業と結託したメディアは、巧みに着飾った言葉で、スポーツの試合を
扱うようなノリで宣伝と広告を打ち、”祖国の為に”と吹聴する政府の
プロパガンダに乗せられた人々が限定的な局地戦争を容認する風潮が生まれた。
資源採掘などの利権争いに白黒をつける名目で、国家間で定期的に
試合じみた紛争が行われるようになった。
今では、スポンサーのロゴがプリントされたデカールを、ゴテゴテと軍服に
貼付けた兵士や兵器が戦場を駆けずり回る姿は、
家庭のリビングではもはや馴染みの光景となっていた。
定期的に行われる”演出された戦争”は、鈍化していた経済を
活気づかせることに成功した。
これが一つの循環として、永続的な戦争需要を生み続ける構造として定着した。
軍事技術の移転から技術革新が進み、需要と雇用の枠組が広がった。
スポンサー企業郡の商品も飛ぶように売れるようになり、効果は第三次産業に
まで波及していった。
世界経済は年々、安定した成長を見せるようになり、人々は好景気を享受した。
新しい戦争の形が、閉塞感を打ち破り、権益の移転を促し、
世界の在り方を変えたのだった。
作品名:インビンシブル<Invincible.#1-1(1)> 作家名:ミムロ コトナリ