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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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はるかな青空

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  【谷川先生】
 
 夏休みが終わった。
(明日こそ)と頭では思うけど、ぼくの足はどうしても学校へ向かうことができないまま、二週間がすぎた。
 クロはいくらか飛べるようにはなったけど
あいかわらずチョウチョのような飛び方だし、虫を捕まえるのも下手だった。
 飛んできた蚊をぱっとくちばしでとらえても、それを飲み込むのにもう一度口を開けたとき逃げられてしまうんだ。
 だけど、クロは何度でもあきらめずに虫を捕らえようとする。
 それを見ているうちに、なんだかぼくは自分がものすごく弱虫みたいに思えてきた。
 不登校になってから、ぼくは規則正しい生活をするようにしている。
 ゲームも少しはやるけれど、ジョギングや自分の部屋の掃除を決まった時間にやるようにしているし、必ず最低二時間は勉強している。それがお父さんとの約束だった。
 でも、と、このごろぼくは思い始めた。ぼくはいったい何をしているんだろう。
 クロは虫を捕まえるのに失敗してもあきらめないし、へたくそでも飛ぼうとしている。
 それもクロが飛んでいく空は危険がいっぱいで、死ぬかもしれないんだ。
 ぼくは本音ではクロに飛んでいってほしくない。ずっとぼくといてほしいと思う。それが勝手な願いなのはわかっている。
 巣から落ちたクロと、先生に傷つけられたぼく。
 クロはぼくの助けで生きられた。でも自分で飛ぼうとしている。
 ぼくは両親や友だちの支えがあるのに、自分では何もしていない。
 ぼくはクロより弱いのかもしれない。谷川先生がどうこうよりも、自分がしっかりする方が大切なんじゃないか……。
 そんなことを考え始めた矢先、土曜日の午後だった。本を買いに行こうと玄関で靴を履いていると、チャイムが鳴った。
「はい」
と、ドアを開けると、立っていたのは谷川先生だった。
 ぼくはぐっ、と息を詰らせた。
 先生は、ぼくが休みだしてからも何度か来たけど、ぼくは部屋にカギをかけて絶対会わなかった。だから会うのは二ヶ月半ぶりくらいになる。
 ショートカットでボーイッシュな外見は同じだけど、今までと違ってずっとしおらしい感じがした。
「こんにちわ、ツトム君。今日は会えてうれしいわ」
 先生はにこにこしている。
 でも、ぼくは顔がこわばって声もでない。体中の血が冷たくなっていくのを感じた。
 ぼくの家の中に先生がいると思うと胸が苦しくてたまらなくなった。
「ツトム。あんたもここにいなさい」
 お母さんが言ったけど、それを無視してぼくは家をとび出した。
 やみくもに自転車を走らせて駅前の本屋までいくと、真にばったり会った。やっぱり先生にいじめられて休みがちだったやつだ。
「先生、ずいぶんおとなしくなったぞ。おまえもそろそろ出て来いよ」
「真は、いってるの?」
「うん。気が重かったけど、行きだしたら落ち着いてきてさ。いやなことも気にならなくなった。そりゃあ、忘れちゃいないけどな」
「ふうん。いいなあ」
 ぼくは真がうらやましくなった。
 たった今、谷川先生にあって、たちまち不登校前の状態にもどってしまったんだから。
 真の顔は明るかった。
「ツトムのおかげだよ。ツトムが不登校になって、親が校長にいっただろ? そしたら今まで我慢してたやつも親に話してさ。谷川先生、PTAからだいぶつるし上げ食ったらしいぜ」
「ふうん」
 さやかや竜二からそれとなく聞いてはいたけど、先生がしおらしく見えたのはそのせいだったのか。
「まあ、まだ油断はできないけどな。性格なんてそうそう変えられるもんじゃないから」
「うん」
 真の意見にぼくはまったく同感だ。ただ、ぼくとしては先生が目の前から消えてくれない限り、学校へは行けそうにない。
 家に帰ると、お母さんは谷川先生のことで、何か言おうとした。
「ツトム、あのね……」
「やだよ。あいつの話なんかしないで!」
 ぼくはめいっぱい不機嫌な顔をして、部屋に閉じこもった。
 お母さんのため息が小さく聞こえた。

作品名:はるかな青空 作家名:せき あゆみ