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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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はるかな青空

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  【おじさんの家】

 数日後、ぼくたち三人はおじさんの家に行った。
「山下。あ、ここだわ」
 先をどんどん歩いていたさやかがみつけた。
赤い屋根で白いかべのこぢんまりした家だ。
「まあまあ、いらっしゃい」
 玄関に奥さんが出てきてくれた。
 案内された少し広い洋間に、しゃれた大きな鳥かごがあって、中にオウムがいた。
「イラッシャイ、イラッシャイ」
 羽をばたばたさせて、甲高い声でオウムがしゃべったのでぼくたちはびっくりした。
「あら、オムたん。久しぶりのお客様だからうれしいのね」
 奥さんが言った。
「やあ、いらっしゃい」
 着物姿のおじさんが奥の方からきた。
 いつもの作業着じゃないおじさんはなんだか、ちがう人のようだ。ぼくたちが目を丸くしていたら、おじさんが笑った。
「おや、おかしいかな?」
「校長先生みたい」
 さやかが言った。たしかにそんな雰囲気だ。
「そうかい?」
 おじさんは袖を広げておどけて見せた。そのとき、かべを見回していた竜二があっと声を出した。
「これ、学校? こんなに子供が……。あれ? 若いけど、おじさん?」
 かべには古い写真が飾ってあった。
「あなた、話してなかったの?」
 冷たいジュースを運んできた奥さんが言った。
「うん。今はただの畑のおじさんだからな」
「どうりで、先生みたいな感じがした」
と、さやか。ぼくが言おうと思っていたのに先を越された。
「おじさんのことだから、きっとやさしい先生だったんでしょ」
 竜二が言う。
「さあ、どうだったかな。それよりジュースを飲むといい。暑かっただろう?」
 このとき、おじさんがちょっとだけさびしそうな目をしたのに気づいたのは、ぼくだけのようだった。
「ギュルル……」
 ポケットの中から顔を出してクロがくぐもった声で鳴いた。
「ごめん、クロ。うっかりしてた。おじさん、紹介します。これがクロ」
「おや、連れてきたのか。よく飛ばなかったね」
 おじさんが指をだすと、ギャッギャッと口を開けた。もう、くちばしの黄色いのはなくなったのに、まだ赤ん坊みたいだ。
「ええ、まだあんまり飛べないんです」
「そうなの。ちょうちょみたいなのよね。ひらひらって。ねえ、クロ」
 さやかが自分の指に乗せて竜二の方を向いた。
「へえ、これがクロか。よろしくな。ちび」
 竜二もクロを見るのははじめてだ。さやかから指に乗せてもらったクロを、竜二はおじさんに渡した。
「ギャー、ギャー」
 おじさんと奥さんがクロに夢中になっていたら、やきもちをやいたのか、オウムのオムたんが、鳴いてばたばたと暴れた。
 クロはその声におびえて肩をすぼめてブルブルッと体を揺すった。
 それがおかしくてぼくたちはしばらくの間笑った。
「ところで、ツトム君はツバメが飛ばなかったらこのまま飼うつもり?」
 おじさんに聞かれたけど、ぼくはよく考えていなかった。
「このまま自然に飛べるまで待つつもりですけど、冬まで飛べなかったら……」
と、ぼくが言いかけると、竜二が言った。
「うん。飼っちゃえばいいさ。家の中なら冬でも暖かいから。あんがいクロは外へ行っても、えさをとれないで死んじゃうかもな」
「いやあ。そんなのかわいそう」
 がらにもなくさやかが鼻声をだした。竜二は続けた。
「自然で育ったやつだって、渡って行く間に死んじゃうんだぞ。春と秋の往復で、いったいどのくらい生きてるかっていうと」
 すかさずぼくは、
「二十七パーセント!」
と、図鑑で調べたことを得意になって言った。
「そう。七十三パーセントは死んじゃう」
「ええ、そんなに?」
 さやかは目を丸くした。
「そうだね。実際、一冬育てて次の年に離してやったっていう人がいてね。そのほうがうまくいくかもしれない」
と、おじさんが言ったので、ぼくは竜二とおじさんのアドバイスに従おうと思った。
 おじさんの家は楽しく、話しこむうちにお昼ご飯までごちそうになって、気がついたら夕方近かった。

作品名:はるかな青空 作家名:せき あゆみ