温泉に行こう!
さっきとほとんど変わらない出来映えの字である。
しかし、内容は少し変わっていた。
病気療養のため、温泉に行きます。
しばらく連絡を絶ちます。
そう書いてる。
「……まあ、これでいいのではないでしょうか」
さっきよりはマシという程度のような気もするが。
「そう? 良かった」
久坂は明るく笑う。
病を患っているようには見えない。
だが、嘘も方便と言うし、と寺島は思うことにする。
久坂は立ちあがった。
「じゃあ、旅に出る支度をしないと」
その声はさっきまでとまるで違って、楽しそうである。
久坂は旅好きなのだ。
旅支度を始める久坂の足取りは弾んでいる。
ふと、その足が止まった。
そして、寺島のほうをふり返る。
「もちろん、寺島も一緒に行くよね?」
問いかけというより、確認だ。
「はい」
そんなわけで、寺島は久坂と一緒に温泉に行くことになった。