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温泉に行こう!

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「何人もの人から招かれているし、行ったことのあるところからまた招かれりもするから、毎晩どこかを訪ねることになる」
「すごいねえ」
市之助は言う。
「でも、それだったら、たいへんだったりもしない?」
「そうだな。招待はたくさん来るから、俺が管理をしている」
あちらこちらから、是非、と招待してくるのを、寺島がすべて把握して、どの日にどの屋敷に行くか日程を決めていた。
理由は、もちろん、久坂があたりまえのようにまかせてくるからだ。
「へー」
嘉二郎が感心したように声をあげた。
さらに。
「寺島って便利だね!」
朗らかに言った。
便利……。
人に対して用いるのに適切な表現だろうか……。
そう思ったものの、寺島は黙っていた。
ふと。
眼のまえに人があらわれた。
「明日には出立されるそうで、残念です」
この屋敷の主人だ。宴会の主催者でもある。
言った台詞のとおり、残念そうな表情をしている。
久坂が帰るということは、あっというまに町中に広がって、急遽、この屋敷を訪ねてきた者もいるらしい。
だから、今夜はいつもよりも大規模な宴会である。
屋敷の主人の眼が、何気なく市之助に向けられた。
「たしか、ご友人の……?」
「はい、山田市之助です」
市之助はきりっとした声で返事をした。
その眉間には少しシワが寄っている。
本人としては、大人っぽい表情をしているつもりなのだ。
すると。
「まだ小さいのに、よくこの町まで来ましたね」
屋敷の主人は慈愛に満ちた笑顔を市之助に向けた。
市之助を何歳だと思っているのだろうか……。
そんな疑問が寺島の胸にわいた。
一方、市之助は凍りついている。
市之助の年齢をさりげなく知らせようかと、寺島が思ったとき。
「ああ」
そう声をあげ、屋敷の主人が違うほうを見た。
出席者のひとりから手招きされている。
屋敷の主人は軽く礼をしてから去っていった。
作品名:温泉に行こう! 作家名:hujio