温泉に行こう!
「カジ、話がそれてるよ」
市之助が指摘する。
「久坂さんを説得するために僕たちは来たんだよ」
「ああ、そうだった」
嘉二郎はハッとした表情になった。
その眼が上に向けられる。
「えーと、説得、説得」
考えているらしい。
そして、その眼がふたたび久坂のほうに向けられる。
「説得って、なに言ったらいいんだっけ?」
ほがらかに問いかけてきた。
「……」
なにを言ったらいいのか。
そんなことを聞かれても。
残り三人は固まる。
「あっ、そうだ!」
嘉二郎がなにかひらめいたようだ。
「桂さんから久坂あての手紙を預かってきたんだ」
そう言って、荷物のほうに手をやった。
桂さん。
桂正五郎のことだろう。
塾生ではないが、松風が藩校で教えていたときの生徒である。
自分たちよりも年上だ。
生家は裕福な藩医で、養子に入った先は高杉や市之助と同じ家格の家。
性格は穏やかで、公正であることを好む。
剣術の腕前に秀でていて、剣術の修行のために江戸に遊学した際は、入門した先の剣術道場の塾頭になった。
顔が広く、他藩の者とも親交がある。
そして、面倒見が良い。
自分たちにとっては頼れる兄貴分だ。
嘉二郎は手紙を取り出し、久坂に差しだす。
それを久坂は受け取った。