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温泉に行こう!

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「それにしても、久坂って、やっぱりすごいよねー」
嘉二郎が久坂の正面に座りながら、言う。
「イチとこの町に来て、道に迷いそうになったときに、まわりのひとに久坂の名前を出して聞いてみたら、みんな親切に教えてくれたよ。すっかり有名人なんだね」
その隣に座り、市之助が眉間にシワを寄せたまま、うなずいた。
「この旅館まで案内してくれる者もいました。それも複数です」
「久坂はどこにいても目立つんだよね。潜伏とか向かなさそう」
明るく笑って、嘉二郎は続ける。
「光り物って感じ」
本人に悪意はまったくない。
それは、よくわかる。
だが。
「僕は光り物……」
言われた当人の華やかな顔には、うっすらと影が落ちている。
「ぜんぜん嬉しくないんだけど……」
そばにいる寺島にしか聞こえないぐらいの小声で、つぶやいた。
嘉二郎はそんな久坂の様子には気づかず、その眼を寺島のほうに向ける。
「寺島はいぶし銀って感じだよね」
無邪気そのもの笑顔で告げた。
いぶし銀……。
寺島は胸の中で嘉二郎が自分に対して言ったことをくり返した。
金でありたいとは思わない。
銀で充分すぎるほどだ。
しかし、その銀をいぶす意味は……?
寺島はよく、実年齢以上に落ち着いて見えると言われる。
いや。
正確には。
老け顔だとよく言われる。
以前、まだ元服まえであったのに、市之助と一緒に歩いていて親子だと間違われたことがあった……。
嘉二郎が表現したのは、そのあたりのことだろう。
ぜんぜん嬉しくない……。
そう寺島は思ったが、口には出さないでおく。
作品名:温泉に行こう! 作家名:hujio