温泉に行こう!
が、しかし。
まっすぐすぎる松風には、おとなしくしていることなんかできない。
獄舎から塾生たちに手紙を送り、過激な攘夷作戦を実行せよと迫ってきた。
それを読んだ塾生たちはびっくり仰天した。
こんな御時世だから、今はおとなしくしていたほうがいい。
そういった内容を、できるだけ穏便に書いて、返事した。
久坂もそうした手紙を送ったひとりだ。
もちろん、それは松風の身を大切に想っているからこそである。
だが、しかし。
そんな塾生たちの反応に、松風は激怒した。
国の危機に身の安全を考えるとは情けない、そんな臆病者とは絶縁する。
といった内容の、感情的な文面の、返事を送ってきた。
その手紙が、今、寺島の手にある。
「僕、さ」
久坂が言う。
「先生のためを思って手紙を書いたんだけど」
その整った顔には影が落ちている。
いつもは、ひとの眼を惹きつける華やかな笑みが浮かんでいるのに。
それが嘘のように沈痛な面持ちである。
「……そうですね」
「他にもいろいろ先生のために動きまわったつもりなんだけど」
久坂が詩を吟じれば川も流れを止めて聞きいる、などと、どう考えてもありえないことを言われるほどの美声が、今は地の底をはっているかのように暗い。
「……そうですね」
言うとおり、久坂は人脈の広さを活かして様々な方面に働きかけていた。
一緒に行動することが多いので、寺島は久坂ができる限りの手を打ったことをよく知っている。
はぁー、と久坂はため息をついた。
「なんだか嫌になってきた」
眼を伏せ、暗い表情で、つぶやいた。
そして、くるりと背を向けた。
文机に向かい、なにかをさらさらと書いている。