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温泉に行こう!

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三、


山田市之助は畳に正座していた。
幼く見えるが、それは小柄であるのと童顔のせいであり、いちおう、元服は済ませていた。
両方の手は拳にして足の上に置き、神妙な顔つきをしている。
その眼のまえを、市之助よりはやや大きいが歳のわりには小柄な高杉晋蔵が歩いていた。
高杉は落ち着かない様子だ。
いや、違う。
そわそわではなく、イライラしているのだ。
全身からイラ立ちを発している。
そして。
「なんで、あのバカ、返事を寄こさねェんだー!?」
ほえた。
高杉の言ったバカとは、久坂のことだ。
久坂さんはバカじゃないけど。
そう市之助は思ったものの、口には決して出さない。
そんなことを言えば、高杉をさらにイラ立たせてしまうだろう。
高杉は市之助より年上であるし、松風の塾においても、高杉のほうが立場が上だ。
なにしろ高杉は久坂とともに双璧と呼ばれる存在である。
双璧とは一対の宝玉のことだ。
塾生の中で、ふたりが特に秀でていて、さらにその才が拮抗しているからこそ、そう呼ばれている。
だから、それを考えると、市之助は久坂のことを決してバカ呼ばわりはできないが、高杉なら……。
いやいや。
それはどうだろうか。
「いったい、俺があのバカあてに、何通、手紙を送ったと思ってるんだ!? それなのに、なんで、あのバカは、たったの一通も、返事を寄こさねェんだ!?」
高杉は怒鳴った。
温泉に行った久坂に、高杉は帰省をうながす手紙を何通も送ったのだが、まったく無視されているとしかいいようのない状況だ。
だから、腹をたてている。
だが、双璧の片割れのはずなのに……と思ってしまう。
久坂はいつも穏やかに微笑んでいて、落ち着いている。
その反面、なにを考えているかわからないところがある。
塾生のあいだでは、クサカ腹黒説もウワサされている。
それに対し、高杉は怒りっぽく、感情をそのまま表に出す。
わかりやすい。
そうとらえればいいかもしれないが、当たり散らされる側になると、やはり困る。
言葉遣いは乱暴だ。
しかし、高杉家の家格は藩内では上のほうで、その家格よりも裕福だと言われている。
今、市之助がいる高杉の屋敷も広くて立派である。
市之助の家の家格は高杉家と同じではあるものの、住んでいる屋敷はここと比べると劣る。
そんなわけで、高杉はお坊ちゃんではあるのだが……。
「まったく! まったく! まったく、アイツは!」
イライラと部屋を何往復もする姿から、お坊ちゃんらしさは感じられない。
作品名:温泉に行こう! 作家名:hujio