あかいくつ
どうもおかしいと思ったら、早紀の差し金だと、りょうたが言う。
昼休み、ぼくは早紀を裏庭に呼びだした。
ショートカットで色が浅黒くて、ちょっと見には男の子みたいだ。
ぼくに呼ばれたわけがわかっているのか、ふてくされて目を合わせようとしない。
「おまえ、どういうつもりだよ」
「別に。わたし、何もしてないわよ」
早紀は、耳のそばの髪の毛をいじりながら言った。ばつが悪いときのくせだ。
「大人げないから、いじめなんかするなよ」
「わたし、子どもだもん! わたるのバカ。なによ。外車に乗せてもらったからって、あの子にでれでれしてさ」
早紀はべーっと舌を出すと、さっさと走っていってしまった。
「あっはっはっは。ただのやきもちか」
ぼくの話を聞いて、りょうたは大笑いした。
「八つ当たりもいいとこだよな。第一、あいつには関係ないじゃん」
「しょうがないさ。早紀はおまえのこと好きなんだよ」
りょうたはまた、笑った。
「ありがとう。心配してくれて。わたしは大丈夫よ。わたる君がいてくれるし」
早紀の仕打ちを謝ったら、あやこさんはそういって笑った。
実際、ぼくが心配するまでもなく、あやこさんはひとりぽっちでもかまわないようだった。
どの授業でもはきはきと答えるし、運動神経もいい。
バレエを習っていたとかで、マット運動の時には、軽やかできれいなポーズを決めた。
女子の間から「なまいき」とか「目立ちたがり」とか、やっかみ半分の悪口がきこえても、知らん顔している。大人なんだ。
ところが、ある日の図工の時間、クラス中がびっくりさせられた。絵の具で色水をいろいろ作ったあやこさんは、
「わたる君。見て、これはソーダ水。こっちはオレンジジュースね」
なんて言いながら、ほんとのジュースを飲むみたいに、おいしそうに飲んじゃったんだ。
でも、かえってそれは、みんなの心をほぐす、いいきっかけになった。
七月のはじめ、ぼくの家にちょっとした事件が起きた。
「赤い靴がないの。わたる、知らない?」
その日の夕飯のとき、お母さんが言った。
あやこさんがかわいいって言った赤い靴だ。 あの靴は、以前、注文で仕入れたけど、その子が病気になってしまったため、キャンセルになったものだ。