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RUN ~The 1st contact~

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 何もわからない圭子が、ママに尋ねる。
「ええ……こういう商売柄、警察にお世話になることもあるんだけど、あなたのお兄様には随分助けられたのよ」
 その言葉だけでは理解出来ず、圭子が首を傾げる。そんな圭子を尻目に、ランは立ち上がった。
「ごちそうさま」
「あら、もう行っちゃうの?」
「目当てのものを見させてもらうよ。また近いうち寄る」
「絶対よ。私も行くから」
 ランは金をカウンターに置くと、店を出ていった。圭子もそれに続く。
「ラン、待って。聞きたいことでいっぱいよ」
「ああ」
 ランはそう言うものの、立ち止まりもせずにスナックの裏手へと回る。だが車には戻らず、そのまま先へと進んでいった。
 スナックの裏手には、店の裏側や壁に囲まれた、ちょっとした広場のようなスペースがあり、そこにランの車が停まっている。その先には、壁にくりぬかれたようなトンネルがあった。そしてトンネルを抜けると、思いがけない光景が、圭子の前に現れる。
 壁で圧迫感のあった場所から抜け出したせいもあるが、そこは開放感溢れる倉庫街である。すぐ横にはプレハブ小屋が建ち、目の前には用水路に似た小さな川が流れている。その川にかけられた橋を渡ると、機械的に並んだ倉庫群が見える。
「……ここは?」
「俺の家だ」
 ランはそう言うと、車が通れるほどの幅がある橋を渡った。そして一つの倉庫の前に立つと、先ほどスナックのママから受け取った鍵を取り出し、シャッターにつけられた小さなドアを開けた。
 真っ暗な倉庫の中を、ランは真っ直ぐに歩いていく。やがてつけられた明かりに、倉庫の中が露わになった。
 広い倉庫は吹き抜けになっていて、壁づたいに二階スペースもあるようだ。倉庫の中央には低めの壁があり、その中に一つ部屋があるようで、またその向こうには、入口であるこちら側と同じだけ広々とした場所に、キッチンやダイニングテーブルなどの家具まで置かれている。
 ランは反対側のシャッターの鍵も開けると、ダイニングテーブルの前に座った。そこまで来ると、奥にもう一つ、リビング部分があるのも見える。大きな倉庫だけあり、住むにはあまりにも広い。
 圭子はランの前に座り、静かに口を開いた。
「……何を考えているの?」
「別に」
 ランは口数少なく、煙草に火をつける。
「それで、話って何なの?」
「……明日、おまえは仕事が休みだよな?」
「どうして知ってるの? ううん、あなたなら何でも知ってるわよね……そう、休みよ。このところ、全然休みが取れていなかったから……それが何か?」
「片を付ける。おまえも来るか?」
 圭子は目を見開いた。
「……私も?」
「嫌ならいい。兄貴の仇を取りたいのかと思ってな」
 ランがそう言った瞬間、ランの携帯電話が鳴った。ランはすぐに電話に出る。
「Hello」
『ハロー、ラン。トムだよ』
 中国にいるはずの、トムのそんな声が聞こえる。
「ああ、様子は?」
『今、連中が船に乗り込んだよ。仕掛けは良好。リストの人間は全員乗り込んだ。しかし、想定内だけど問題が起きた』
「どうした」
 ランはそう言いながら立ち上がると、キッチンへと歩いていき、台の上に乗った食器類から陶器の皿を出すと、そこに煙草を揉み消す。
『ジュニアが乗り込んだ。マフィアのボスの子、龍王だ』
 ランはシンクへと寄りかかると、軽く頭を掻いた。
 リストに乗っている人物が船に乗り込まないこと、またそれ以外が乗り込むことは、予想の範囲内だった。マフィアに関わっている連中など、巻き添えになっても仕方がない部分もあるが、子供を殺すのは趣味ではない。
「……年齢は?」
『確か、八歳だったかな……大物の子供だけあって、生意気なガキだよ』
「わかった。一時中断だ。出港を見届けたら、こっちに戻ってきてくれ。作戦を練り直す」
『練り直すって……まさか助けるつもりかい? あんな子供の一人くらい、死んだって……』
「いいから戻れ」
『わかった……すぐに戻るよ』
 ランはそこで電話を切った。その間も、圭子はずっとランを見つめている。
「何かトラブル?」
「察しいいな」
 ランは軽く笑うと、圭子の前に座った。
「何があったの?」
「こっちは大した問題じゃない。それより、おまえの答えは?」
「……すべてを知りたいとは言ったけれど、殺し屋と結託して仇打ちだなんて、そんなこと……」
「ムシがいいような気もするが、それならそれでいい」
 ランは少しホッとしたような表情を見せると、新しい煙草に火をつけた。
「……ヘビーというか、チェーンスモーカーね。体には気をつけた方がいいと思うけど……」
「ハッ。殺し屋に意見するとは、度胸があるな」
「そうね……あなたを信用するなって、忠告されたばかりなのに」
「ああ。俺の正体を知っても近づいてくる人間なんて、イカれたやつしかいない。おまえもそうなのかもしれないな。一杯つき合えよ」
 ランはそう言うと、キッチンの棚からブランデーとグラスを取り出す。
「そうね。この際、とことんつき合うわ」
 圭子は少し酔いたくなっていた。この現実離れした世界から、酒の力を借りて開放的になりたいと思う。
 ランはグラスに氷を入れると、ブランデーを注ぎ、圭子のグラスに自分のグラスを合わせた。
「乾杯」
 二人はグラスに口をつけると、互いを見つめる。
「……この場所には慣れてるみたいね。スイッチの位置、お酒や氷の位置も」
 沈黙になった一瞬、圭子がそう切り出した。
「俺の家だって言ってるだろ。殺し屋の拠点が、一つだとでも思ってるのか?」
「じゃあ、日本のアジトは他にもあるっていうの?」
「まあな……」
 ランは口数が少ないものの、意外にも聞けば何でも答えてくれる。また、その姿はどう見ても圭子と同世代であり、下手をしたら年下にも見える。まだ実際の仕事を見ていないこともあり、そんな見た目のランは、接しやすい部分もあった。
「でも、しばらくはここに身を落ち着かせるつもりだ。警官であるおまえも知っておいた方がいいと思って、連れてきた」
「……すっかり私はあなたの仲間ね。これも計算の上?」
「……そうだな」
 ランのその言葉に、圭子は傷ついていた。自分はランの計算の上でしか動いていないように思える。また、自分が駒の一つということが、妙に悲しかった。そう思うと同時に、圭子は酒を煽るように呑む。
「おかわり」
「なんだ。酒癖が悪かったのか?」
 圭子の態度に、ランが涼しげに微笑んで言う。
「しらふではいられないもの。自分の心を保つためにも、お酒の力が必要な時もあるのよ」
「……くだらないな」
 ランはそう言いながらも、圭子のグラスにブランデーを注ぐ。そんなランを、圭子は見つめた。
「……酔ったついでに、もう一つ聞いていい? あなたの年齢は?」
 圭子の言葉に、ランは突然、態度を変えた。その顔は無表情のままだが、近寄りがたい雰囲気を漂わせる。だがランは、すぐに笑って圭子を見つめた。
「永遠の二十歳……」
 ランのその言葉に、圭子は一瞬言葉を失ったかと思うと、吹き出した。
「殺し屋さんも、冗談言うのね」
「百歳越えてると言ったって、信じないだろ?」
 ランも笑って尋ねる。