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RUN ~The 1st contact~

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4、アジト



 次の日。昨夜のうちに、久々の雪が降り積もり、街は白く覆われている。
 圭子は非番で、気分直しに街へと繰り出した。このところ、ランのことが頭から離れない。圭子の足は独りでに、ランのいるホテルへと向かっていくのだった。しかし、ここへは来るなと二度も言われているため、さすがに部屋まで行く勇気がない。
 そんな時、ホテルからランが出てきた。思わず隠れた圭子は、出るタイミングを失くしてしまう。
 ランはそのままホテルから遠ざかり、街の方へと歩いていく。圭子もそのまま、気付かれないように、ランへとついていくのだった。
 やがて繁華街に入り、人ごみに紛れてきたと同時に、圭子はランの姿を見失ってしまった。
「何の真似だ?」
 キョロキョロと探す圭子の後ろから、ランの声が聞こえた。圭子は生唾を飲み込んで、慌てて振り向く。
「ラン……!」
「理由次第じゃ、どうなっても知らないぞ」
 目の前のランの目は冷たく、鋭く圭子を射抜いている。
「……ごめんなさい。どうしても、あなたのことが気になって……そうしたら、ちょうどあなたが出てきたから、ついつい出るタイミングを失って……」
「だから尾行か? 関心できねえな」
 ランはそう言うと、圭子を追い越して歩き始める。圭子もそれについていった。
「どうしてついてくる?」
 ランの歩調に必死でついてくる圭子に、ランが尋ねる。
「どこへ行くの?」
 たじろきながらも、圭子は負けじとそう尋ねた。
「ハッ。見張りか」
「……そうね」
「最初に言っただろ。観光だって」
「嘘でしょう? だいたい天下のA級犯罪者が、変装もしないで……」
「俺の素顔を知っているやつなんて、そうそういねえよ」
 それを聞いて、圭子は黙り込んでしまった。だが、なぜだかランを怖いとは思わない。むしろ怖いもの見たさで、ランのことを知りたいと思う自分がいる。なにより、ランの美しさに惹かれるように、もはや圭子もその魅力にとりつかれているようだった。
 その時、雪解けに凍った歩道で、圭子は後ろに滑ってしまった。するとすかさず、ランの手が圭子を支えている。
「あ、ありがとう……」
「落ち着かないやつ」
 ランが苦笑してそう言ったので、圭子は顔を真っ赤にさせた。
「こ、凍ってるんだもの。私だけじゃないわよ。みんな滑ってるわ。あなただって、笑ってないで気をつけないと」
「俺はそうそう転ばねえよ」
 ランはそう言うと、圭子から手を離してまた歩き出す。その足元は革靴だが、一瞬見えた靴底には、わずかにスパイクのような突起物が見える。
 圭子も慌ててついていった。
「あなたの靴は特殊みたいね。革靴なのにスパイクシューズなの?」
「……殺し屋の七つ道具の一つだ。手動でスタッドの長さが変えられるから、伸ばせばその辺の壁も登れる」
 質問にうんざりした顔を見せながらも、ランは真摯に答えてくれる。そんなランの歩調に必死について、圭子は尚も口を開く。
「ついていってもいい?」
「断っても、どうせ来るんだろ」
「まあ、そうね……」
 ランは近くにあった喫茶店へと入っていったので、圭子もそれに続いた。
「用って、喫茶店?」
「悪いかよ。ずっとホテルにいるのも、体が鈍るからな。散歩だ」
 二人は同時にコーヒーを飲む。圭子は気まずさを抱えながらも、必死に話題を作ろうとした。人通りの多い場所でも、無言の時間は恐ろしく感じる。
「今日、トムは?」
「仕事」
「……中国に?」
「さあな」
 ランは目を伏せると、すぐに圭子を見つめる。
「圭子」
 呼び捨てのその言葉に、圭子は嬉しさのような、驚きを感じた。しかし、ランは気に留めた様子もなく、話を続ける。
「好奇心もいいが、俺が誰なのかを忘れるな。俺は紳士でもないし、おまえの味方でもない。あくまで俺とおまえの関係は、おまえの兄貴の依頼に俺が乗っただけのこと。それにおまえが首を突っ込んできたんだ。止めはしないが、覚悟がないなら近づくな」
 ランの言葉は、これ以上ないというほど強く圭子を拒否しながらも、どこか優しさを感じる。しかし、すでに圭子を止められるだけの効力はなかった。
「……覚悟なら、とっくに出来てるわ。それに私はまだ、あなたが悪い人には見えないの……でも、忠告ありがとう。気をつけるわ。だけど私は、兄に関する真実が知りたいだけ。それが出来るのがあなたのそばなら、私はあなたについていく。たとえ危険でも、警官を辞めなくてはならなくても、その覚悟は出来てるわ」
 圭子はそう言うと、喫茶店を出ていった。残されたランは、不敵に微笑んだ。

 次の日。圭子は仕事を終えると、自宅マンションへと戻っていった。ランのことが気になっていたが、毎日押しかけることも出来ない。
 近くの駐車場からマンションに歩きながら、圭子が物思いに耽っていると、マンションの前に派手な高級外車が停まっているのに気が付いた。開いた窓からは、ランの顔が見える。
「ラン……」
 ランは不敵な笑みを浮かべながら、圭子を見つめている。そんなランに、圭子は駆け寄った。
「どうしたの? この車」
「買った。話がある。ドライブでもしないか」
 この状況に、圭子は恐怖すら覚えていたが、すべてを知る覚悟を持った今、圭子は頷いて助手席へと腰を下ろした。車はそのまま、猛スピードで街を走り出した。
「ちょっと、制限速度わかってる?」
「大丈夫だよ。捕まりはしない」
「そういうこと言ってるんじゃないわ」
 ランは聞く耳持たず、車を走らせる。そして無言のまま、港町へと入っていった。
「……どこに行くの?」
「ドライブだろ」
 ランは答える様子もなく、そう言って笑っている。圭子は半ば諦めて、流れる景色を見つめていた。
 それからしばらくして、車は港町にある場末の酒場の裏手に止まった。こんな場所には、圭子も来たことがない。だが、ランが車を降りたので、圭子も続いて降りる。そして、無言のまま歩き出すランについて、表通りの寂れた“メッセンジャー”というスナックへと入っていった。
「ランちゃん!」
 店に入るなりランにそう声をかけたのは、大柄なニューハーフだ。この店のオーナーで、ランとは面識があるらしい。店の中に客はいるものの、ランは構わず奥のカウンター席へと座った。
「待ってたわ。本当に久しぶりね。変わらないわ」
「ママもな。バーボン、ロックで」
「はいはい。こちらのお嬢さんは?」
 ランの言葉を受けながら、ママと呼ばれたニューハーフが、圭子に尋ねる。
「あ……ウーロン茶で」
「あら。お酒は飲めないの?」
「いえ……しらふでいないと、危険なんで」
 正直なまでの圭子の言葉に、ランは隣で苦笑した。やがて出されたグラスに口をつけると、ママがランに鍵を差し出す。
「はい、預かり物」
「サンキュー」
 ランは鍵を受け取ると、すぐに内ポケットへとねじ込む。ママはそれを見つめながら、懐かしい顔でランを見つめていた。
「掃除もしてるし、言われた通りに物も揃えてあるわ。それにしても、ランも隅におけないわね。こっちに来て早々、女性連れなんて妬けるわ」
「勘違いするな。こいつは石井直人の妹だ」
 ランの言葉に、ママは驚いて目を見開かせる。
「そう。石井さんの……」
「……兄を知っているんですか?」