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恋するワルキューレ 第二部

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「まあ!? 店長さんって、何でも自転車と一緒にしちゃうのね。でもイイわ。ロードバイクに乗る時にだって、ゴールドを付けながら走るなんて悪くないし、デザインも素敵だし」
「気に入って貰えて嬉しいです。結構悩んだんですよ。裕美さんのセンスに合うもので、ロードバイクにも使えるのってなかなか難しくて……」
「確かにそうよね……。ロードバイクのウェアのデザインもあまり褒められたものがないもんね。増してやアクセサリーなんて、スポーツをするのには邪魔になるから付けられないと思っていたのに。店長さんがそんなに気を使ってくれるなんて、余計に嬉しくなってくるわ」
裕美も彼のセンスとソツのなさにちょっと感心してしまった。
ふーん、“彼”ってホントに“出来る人”なのね。プレゼントって一番本人のセンスが出ちゃうものだから難しいのよね。本当に欲しいものなんて、大抵本人がもう既に手に入れちゃっているものだし――。
だからまだ本人が手に入れてなくて、気に入るものなんて99%ありえない。余程入手が困難なプレミアムものか、手が届かない様な高額のものしかないのが現実だ。
O.ヘンリーの『賢者の贈り物』だって感動的な話ではあるけど、恋人に贈り物を選ぶ難しさを示している。

クリスマスに妻のデラは自らの髪を売り、夫に懐中時計の金の鎖を――。
そして夫のジムは父親の形見の時計を売り、愛するデラの為に鼈甲の櫛を――。

愛し合う二人でさえも、互いに望む物を送ることは難しい。だから『賢者の贈り物』の様に美しい話が生まれるのだ。
そんなスレ違いだって、デラとジムの様に愛を深め合うロマンであれば裕美としては大歓迎だが、それもあくまで小説の話。現実では違う。
それを彼はこんな形でクリアしてしまうのだから、裕美も感心せざるを得ない。
「店長さんも素敵なことを考えるわね。私だって、スポーツにジュエリーなんて考えたこともなかったわ」
「裕美さんなら絶対に似合いますよ」
「本当にそう思う?」
「もちろんですよ。裕美さんに合うものをわざわざ探して買ってきたんですから。裕美さんのイメージにぴったりですよ」
裕美は一気に顔が熱くなった。
顔が火照る様な感覚になったのは、アルコールのせいだけではない。
ど・ど・ど――。私、どうしよう? 彼がそこまで言ってくれるなんて!?
私だって彼に何かをしなきゃ!? 私だって積極的にならなくちゃ!
でもどうしよう?? 周りにも沢山人がいるし……。こんな話をタカシさんやオサムさんに聞かれたらムードを壊されるどころか、また話のオカズにされて、もう二度と彼と話が出来なくなっちゃう。
パーティーの後の“彼との二人だけ”の時には何としても決めなくちゃ!
そうよ! 元々、彼だって“私に話がある――”って言ってきたんだし、次が勝負なんじゃない! 彼だって、十分その気なんだから!?
「あのー、店長さん? そう言えばメールでお話があるって……。この後……どうするのかしら?」
「ああ、その話ですか? 今はパーティーの最中ですから、後でお話をと思っていたんですが……」
ああ……、やっぱり他の人に聞かれちゃマズイ話なんだ……。
でもやっぱり、少し聞いておかないとね。この後二人きりになるのだって、上手くみんなから抜け出さなくちゃならないし、心の準備だってあるしね……。
「うん……。少しなら今でも良いわよ……」
裕美は自分の心の照れ笑いを必死に隠し、モナリザの様な大人の女性の笑顔で彼のアプローチを促した。
「そうですか? 裕美さんさえ良ければなんですが、是非お願いがありまして――」
うん、うん。あなたのお願いだったら何でも聞いてあげちゃう!
「実は――」
裕美は、彼の言葉を聞いて息を飲む。
ええっ? “実は――”って、そんないきなり核心に迫る話なの!? 周りの人に聞かれちゃうかも知れないのに!
でも……、やっぱり告白なら早い方がイイわ!
あっ、でも告白されたら、わたし何て応えたら良いのかしら?
「裕美さん――」
ああ、どうしよう? もう決めるしかないわ。
言って! 私、私も店長さんのこと――。
「実は、裕美さんにモデルになって頂きたいんです」
えっ? 店長さん、何を言っているの?
愛の告白じゃないの?
一瞬、裕美の周りの時間が止まった。

* * *

「ハアー、もうあんなに期待していた私が馬鹿みたい……。もう絶対愛の告白だと思っていたのに……」
裕美は自宅でジャージやレーパン、ハイソックスなどのロードバイク用のウェアを床に広げ、ぶつぶつと呟きながら溜め息を付いていた。
“彼”の話も悪いものではなかったが――、てっきり愛の告白を期待していただけに、過剰な期待に身悶えていた自分が恥ずかしい。
それに彼のプレゼントだって、愛の告白のためではなく、私にお願い事をするためのご機嫌取りだったのかと考えると流石にガッカリしてしまう。“彼”のプレゼントが素敵だっただけに、余計にショックだった。
もう、いっその事、私からアプローチを仕掛けた方が良かったのかしら? 折角、彼からプレゼントも貰ったんだし……。
昨日の彼との話を思い出しながら、あれこれと後悔をするのだった。

「実は裕美さんに、自転車雑誌のモデルをやって欲しいんです」
「えっ? モデルって、わたしが? それって一体……?」
「僕の知り合いの編集者からツールド草津で裕美さんを見て、是非雑誌に出て欲しいって言ってきてるんです。でも雑誌に出ると言っても単なる取材ではなくて、モデルとして写真を取らせて欲しいって。裕美さんのヴィーナス・ジャージを相当気に入ったみたいで、それを雑誌に載せたいということなんです」
「そんな、突然モデルなんて言われても……、わたしモデルなんてしたことないし……」
「裕美さんなら、大丈夫ですよ。ハワイの時だって、さり気なくポージングを決めていたじゃないですか?」
「あれは……、ハワイの雰囲気に乗せられてつい……」
「モデルと言っても、そんなに構える必要はないんです。ファッション雑誌のモデルとは違うんですからね。あくまで普通の女性がロードバイクに乗っているという話ですから、逆にプロでは良くないんです。敢えて素人モデルを使う女性誌も多いじゃないですか。あれと同じイメージですよ」
ええ、どうしよう!?
そんなモデルなんて考えたこともなかったし、恥ずかしいし……。
でも彼からのお願いだし……。
そんなこと突然言われても、すぐ返事なんてできないわよね……。
「裕美さんの立場があるでしょうから、あまり無理にお願い出来ることではないんですが――、どうでしょうか?」
「うーん、そんなモデルなんて考えたこともなかったから、ちょっと考えさせてもらえないかしら……」
「もちろんです。ただ出来れば、今週中には返事を貰えますか? ダメであれば出版社に記事の差し替えをお願いしなくちゃなりませんし、原稿や写真の準備もあるので……」
「すいません、すぐにお返事できなくて……。でも原稿の準備って、店長さん、まるで編集者さんみたいね?」
「まあよく自転車雑誌の記事を頼まれますからね。今回も僕が裕美さんの記事を書きますし、写真も撮りますから」
「えっ、店長さんが!?」