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恋するワルキューレ 第二部

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「まあそうやってさ、俺達はどんなに辛くても仲間を助けるんだよ。血に等しい汗を流して、互いに助け合うその団結力の固さは“鉄”みたいなもんさ。だから俺達は“血と鉄の盟約”って言ってるんだ。自転車のチェーンみたいだもんだろう。幾つものチェーンのコマが、仲間が一つに繋がって初めて一つのパーツになるんだ」
「ふーん……。ユウヤさんて結構真面目な事を言う人なのね……。少し見直しちゃったわ」
「だからタカシやオサムの悪戯だって、ちょっと多めに見てやってよ。何だかんだ言っても、あいつらと一緒に走ってると裕美ちゃんも楽しいでしょ?」
「そうねえ……。確かにみんなと走って、苦しくてハアハア言ってるのも、終わって美味しいものを食べちゃうと何か楽しい気分になっちゃうわ」
「そうそう、楽しいだけじゃなく、苦しい時もある。だからロードバイクは楽しいんだよ。裕美ちゃん、こんな言葉を知っている? 俺の心の師匠の言葉なんだよ」

“快楽は苦しみを水で薄めた様なものである――”

オオォォーーー!
タカシやオサムから驚きと感動が交じる声が上がる。
「うーん、ユウヤ先輩、たまには良いことを言うじゃないですか。見直しましたよ」
「良い言葉だねえ。ロードレースの本質を表しているよ。やっぱり楽しいことだけじゃ、真の感動は得られないよね。苦しんで辛い思いをした時こそ、ゴールをした喜びは何事にも替え難いものだよねえ。これこそヒルクライムの醍醐味だよ――」
二人は、ウンウンとユウヤの言葉に頷き、心から納得していた様子だった。
しかし――、
裕美はそのセリフを聞いた途端、ユウヤから一歩下がって身を引いていた。
えっ? えっ? 私の聞き間違いじゃないわよね?
裕美はそのセリフの意味と、それを言った人が何者あるかを知っていた――。
それってちょっと違うんじゃない?
裕美は首を傾げつつ、少し唇を斜めに引き攣らせながら“笑顔”で、ユウヤに確認してみた。
「あのぉぉーー、ユウヤさん。そのセリフって私も聞いたことがある様な気もするんですけれどもぉーー。ちょっと意味が違うと思うんですけれど、私の聞き間違いかしら?」
「おおぉ、さすが裕美ちゃん。お仏蘭西の帰国子女な上に、文学の素養もあるようだねえ」
そう言って、ユウヤは心から嬉しそうな顔をして、彼の『心の師匠』の言葉をもう一度繰り返した。

“快楽は苦しみを水で薄めた様なものである――” by ???

「あのー、ユウヤさん? 本当にその方がユウヤさんの『心の師匠』なんですか? ユウヤさん、その方が誰かご存知?」
裕美はサっと更に身を一歩引きつつも、彼を刺激しない様に猫撫声で優しく聞いたのだった。
「もちろんだよ、裕美ちゃん。フランス頽廃文学の雄、フランス革命の影の主役、
『マルキ・ド・サド公爵』だよ」
きゃあああぁぁぁーーーー!!
裕美は思わず絶叫した!
「イヤァァーー、ユウヤさん、どうしてサドみたいな変態を師匠なんて言うのよ!? さっきまでの良い話は一体何ぃー? 折角、ユウヤさんのことをちょっと素敵だって思っていたのにぃー!」
ユウヤは真剣な表情で、裕美に語り始めた。
「裕美ちゃん、そのサド公爵の言葉は人類の真実だって。特にロードレーサー、ヒルクライム好きなら尚更だね。あんな苦しい思いをしながら、また喜んで山に登るんだから、ロードレーサーは間違いなく“M”だって言われるよ」
「ユユユ、ユウヤさん! ユウヤさんてもしかして変な趣味の持ち主なの?」
「いやー、ハハハハーー。ロードレーサーはM体質だ!とか言われるんだけどね。人によってはあっちの方もM体質になっちゃうんだよねえー。裕美ちゃんも、そうゆうの好きでしょ。本場、フランス仕込みなんだもん!?」
「止めてー! そんなこと教えられていません!」
「そうだったね。裕美ちゃんはそっちの方はまだだったんだよね。でもヒルクライムが好きな女の子なら大丈夫! 十分素質はあるから、すぐに気持ち良くなるよ!?」
「いやああぁぁーー!! 店長さん、助けてえーー!」
裕美は涙目でその場を立ち去って行った。

* * *

「ハッハハハ……、裕美さん、それは災難でしたね?」
「もう、店長さん! 何を笑っているのよ! 本当に変なことされると思ったんだからね。私がユウヤさんに変なことされちゃっても良いの?」
「いやー、それはもちろんダメですけど、まさかユウヤさんはそんな変なことしませんよ」
「嘘よ! あの人、絶対本気の目をしていたわ!」
「本当にもう大丈夫ですよ。ユウヤさんは少なくとも今日はもう何もできませんから……」
“彼”がお店の隅に目をやると、そこにはタカシやオサム達の手によって酔い潰されたユウヤの姿があった……。彼らも大人として暴力を使える訳ではない。社会的立場もある人間である。結果、“制裁”はあの様な形で行われ放置されることになっているらしい。
「本当、店長さん? またタカシさんやオサムさんが、変なことしようとしたら止めてよね。お願いよ?」
「分かりました。今日は裕美さんが主役ですからね。変なことはさせませんよ」
「良かったあ……。もうみんな子供みたいな悪戯ばっかりしてくるんだもん」
「ハハハ……。でも周りから見てると裕美さんも結構楽しそうですよ。だから止めるこのアレかなあと思いまして……」
「店長さんまでそんなこと言うの!? わたし男の人にイジられて喜ぶ趣味はないんですからね。私のイメージが台無しよ!」
「ハハハ、でも“弁護士”の裕美さんよりも、今の裕美さんの方が楽しそうで良いですよ」
「楽しくありません! これでも怒ってるんです! その内、みんなのことをセクハラで訴えちゃうかもよ。その時は店長さんが証言台に立ってもらいますからね。彼らの下品な言葉をちゃんと証言してもらうんだから!」
「えッ……、それはちょっと……。みなさんを裏切る訳にはいきませんし。それに僕も男としてのユウヤさん達の気持ちが分かりますから……」
「エエェー!? 店長さんまであの人達の味方をするの? もう男の人なんて信じられない!」
「そうゆう意味ではなくて……。みなさんも本当に悪気はないんですから。だから裕美さんにプレゼントまで用意したんですし……」
「もう! 物じゃ誤魔化されないんですからね」  
「でもみなさん、裕美さんのために頑張って色々と準備もしてくれていたんですよ。その気持ちは分かってあげて下さいよ」
「まあ、店長さんがそこまで言うなら、許してあげるけど……」
「それに僕からもプレゼントがあるんですよ。もし裕美さんが喜んでくれればなんですが……」
「ええっ、本当?」
そう言うと“彼”はリボンの付いた小さな箱を裕美に手渡した。
「店長さん、これ開けて良いかしら?」
「もちろんです。見て下さい」
箱の中には、ゴールドのチェーンのブレスレットがペアで入っていた。小さなジュエリーも付いていてちょっと可愛いし、シンプルなデザインでなかなか上品さもある。
「わあ、店長さん、嬉しい!! これブレスレットね? 本当に、ありがとう!」
「それはアンクレットですよ、裕美さん。そのデザインならプライベートでも使えますし、アンクレットならロードバイクを乗る時にだって付けられますからね」