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恋するワルキューレ 第二部

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プレゼン当日、裕美達『ロワ・ヴィトン』の社員だけでなく、ライバル『ヴィットリオ・フェラガモ』の関係者を初め、アパレル関係のバイヤー達など、さながら本物のファッションショーの様に会場には多くの人が集まっていた。
これからロワ・ヴィトンとヴィットリオ・フェラガモの『ラコック』を賭けたプレゼンバトルが始まるのだ。
ジローラモ達にショー・バトルを挑まれて以来、裕美やローランはショーで使うラコックの衣装のセレクト、ショーの進行や演出、衣装の写真やパンフレットの作成、バイヤーやファッション関係者の招待など数えきれない仕事をこなしてきた。
何よりもヴィーナス・バイクのデザインと制作が大変だった。
ショーまでに時間がなかったため、ベースとなるフレームの納入や塗装等を短期間で済ませるため店長さんにかなり苦労をかけたし、ローランがアレンジしたグラフィック・デザインは精緻な上、立体的なフレームに合わせたデザインに修正するために、何度も微修正が繰り返されたからだ。店長さんやローラン、そしてロワ・ヴィトン全社のバックアップがなければ、こんな短時間にオリジナル・バイクを作ることなど到底不可能だったろう。
そんな今までの苦労を思い出せば、俄然やる気になってくるし、絶対にこのバトルに負けられない気持ちになってくる。
 そうよ! わたしのヴィーナス・ジャージだって、”Madone”だって、この日の為にあるんだから。何としても勝たなくっちゃ!
 その時、陽気な高笑いがどこからともなく聞こえてきた。ヴィットリオ・フェラガモのジローラモが裕美達の元へやってきたのだ。
「ハッハハーー、ロワ・ヴィトンのミナサン。ついに勝負の時がやって参りマシタネー!?」
「あっ、ジローラモじゃない? もう、あなたまたケンカを売りにきたの? それともナンパかしら?」
「フフフ……、そんなつもりはアリマセーン。挨拶に来ただけデース。これからバトルが始まりますが、これはビジネスでもアリマース。お互い紳士、淑女でなくてはイケマセーン」
 そう言って、ジローラモはスッと右手を差し出した。
「それは助かるネ。じゃあ、フェアに行こうじゃないカ?」
ローランも右手を差し出し、ジローラモとがっちり握手をした。
でも、そんなジローラモの紳士的なご挨拶も、裕美からすれば何かしらのフェイクとしか思えない。しかしそんな不信げな顔をした裕美に、ジローラモは自信ありげに言うのだった。
「オジョウサン、ここは沢山のクライアントがイマース。たとえ仲の悪い敵同士でも、紳士的な振る舞いが出来なくては、お互いに信用を落としてシマイマース。そんなことが無いためにも、挨拶に来たのデスヨ。では今日はお互いに頑張りまショウ。ワタシもショーの準備があるので失礼しマスヨ」
そう言ってジローラモは、おどけることも裕美をからかうことなく、静かに立ち去った。イタリアの田舎者の風情は全く見えない。見事な紳士ぶりだ。
「…………。ヒロミ、聞いたカイ? 意外と良いライバルになりそうだね……。もちろん負ける訳にはいかないけどネ」
「そうね……。思ったより手強そうだわ……。もう出来ることは少ないけど、私達のやってきたことを信じましょう!」
裕美とローランが言い様のない緊張感に包まれていた。
その時、シャルルが慌てた様子で裕美の所へやって来た。
「大変だよ、ヒロミ! 今日ステージに出る予定のモデルが事故にあって、急に来れなくなったそうダ。今日はジャージとバイクのプレゼンをするだけだから、あまりモデルの数を用意していないんダ。これじゃステージを回しきれナイ!」
「分かったわ、シャルル! わたしもエージェントに電話して代わりのモデルを探すわ!」
「ヒロミ、それはダメなんだヨ! 他のモデルを呼んでも、ショーの進行も分からないから、今からじゃもう間に合わないなんダ!」
「えっー? それじゃ、ステージはどうなるの?」
「それでなんダ。ヒロミ、今日のモデルをやってくれないカ?」
「そんな! シャルル、何を言っているのよ!? 私なんてステージに立ったことなんてないのよ!」
「でもヒロミなら、ショーのプログラムも分かっているよネ?」
「それはもちろん……。私もミーティングに出ていたし……」
「今日来れなかったモデルも、身長もヒロミと同じくらいなんダ。だからジャージもヒロミなら着られるんだヨ」
「それはそうかも知れないけど……」
「ヒロミはウォーキングもポージングもモデルから習ったことがあるって言っていたよネ?  バレエもやっていたっテ?」
「それは教えてもらっただけで、ステージに立ったことは……」
「決まりダ! すぐにコッチへ来て、ヒロミ!」
そう言って、シャルルは裕美の腕を掴んで控え室へ引っ張って行った。女の子の裕美が、身長180cmを超えるシャルルに掴まれては、逃げることなどもう物理的に不可能だ。それにショーの事を考えれば、立場的にも逃げることは許されない。
キャー! ローラン、助けて! シャルル、お願い許してー!
裕美は悲鳴を上げて訴えるが、無駄な抵抗だった。ローランもシャルルも「頼むヨ」と必死な視線を送ってくる。もう逃げられない!
でも、でも、許してー! あんな露出の多い服で、こんな大勢の前に立つの? 恥ずかしいわよーー!!

そんな裕美の『恥じらい』を他所に、いよいよステージが始まった。まずは『ヴィットリオ・フェラガモ』のプレゼンだ。
裕美はステージの裏側で、ライバルのステージをチェックしていた。
まずはランニングウエアだ。これは裕美達の予想通りだった。今日本では空前の?ランニングブームで東京マラソン等の参加者が何万人を超えるなど何かと話題になっているが、その割にはランニングウェアの売上げはブーム程伸びている訳ではない。
あまりアスリートはファッションを気にしない気質のようで、アパレル関係者としてはそれが歯痒く、なんとか売り上げを伸ばしたいのだろう。
続いてサイクルウェアだ。こちらは黒をベースに、蛍光色やゴージャスな模様が描かれたものが多い。スポーツウェアは地味な黒が好まれることから、このようなウェアをチョイスしたのだろう。
そしてついに『クレオパトラ』のジャージを着たモデルが"Forever"に乗ってステージに現れた。しかも驚いたことにステージには、何とサエコ本人が出ている。さらに次々とバイクに乗ったモデルがステージに現れた。
えっあのバイクは全部"Forever"じゃない。1台、2台……、4台もある。1台170万円もするバイクを一体、どうしたの??
「フフフ……。オジョウサン、驚きましたか? 私達はこの日の為に"Forever"を4台も用意したのですよ。これで招待客の心をGetデース」
後ろからジローラモがニヤリと笑って、裕美に話しかけた。裕美の驚いた顔を見て、自慢したくて仕方ない様子だ。いかにもジローラモらしい。
実際に会場からも驚きの声が聞こえる。誰もこんな美しいアーティスティックなバイクがあることも知らなかったのだろう。
「ジローラモ、あんな高価なバイクを4台も一体どうしたのよ? それにもうあのバイクは生産されてないんじゃないの?」