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恋するワルキューレ 第二部

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「15万円なら、何とかなります。私もロードバイクを買います!」
「それじゃあ、早速用意しましょう。ツバサ、よろしく頼む!」
「もちろんです。まかせて下さい! それじゃあ舞さん、ポジションを合わせたいんで、こっちのバイクに乗ってみてもらえますか?」
「はーい!、 ツバサさん、よろしくお願いしまーす!」
「それじゃあ、裕美さん。僕も『マドン』を組み上げます。お二人のバイクとも夕方までには組み上げますから、隣の『フィガロ』でお茶でも飲んで待っていて下さい」
「あのぉ……、店長さん。ちょっと良いかしら?」
「はい、何でしょう、裕美さん?」
「あの、もし邪魔じゃなかったら、私にもマドンを組むのを手伝わせて貰えないかしら?」
「お客様にそこまでしてもらっては申し訳ありませんよ。僕等の仕事ですし、裕美さんは、気になさらず隣でゆっくりしていて下さい」
「店長さん、そうじゃないの! あの……、別に店長さんに悪いからって言うんじゃないの……。
わたしの……、いいえ、この『マドン』はみんなが作ってくれたバイクでしょ!
店長さんやロワ・ヴィトンのみんなのお陰で出来たバイクだから、わたしも出来るだけのことはしてあげたいの。だから店長さん、お願い!」
裕美は本気だった。今回の“おねだり”は決して彼との『個人授業』を目的としている訳ではない。
このヴィーナス・マドンは裕美がデザインしたバイクだし、言うなれば自分の分身、あるいは自分の子供の様なものだ。やはり『何か』をしてあげたい気持ちになってしまう。バイクのメンテナンスなど全く出来なかった裕美だが、ここは母性本能と愛情の方が上回った。
「裕美さん、分かりました。自分のロードバイクを大切にしたい気持ちは分かりますし、メンテナンスを覚える良い機会ですからね。裕美さん、手伝ってもらえますか?」
店長さんたら「手伝ってもらえますか」なんて……。本当は私が『邪魔』するだけなのに、そんな風に気を使ってくれてありがとう。
「店長さん、ありがとう。私にもやらせて!」
「えー!? センパイ、わたし一人でお茶してろって言うんですか? 先輩、それなら私も手伝います!」
「舞、アナタまで、 別に無理をしなくて良いのよ」
「私もお手伝いしますよ、センパイ! それじゃ隣のお店でケーキとコーヒーをテイクアウトしてきますね!」
「舞! 手伝うって、そうゆうことなの!?」
「だって、わたしケーキを食べたいですもん! 先輩だって、食べたいですよね?」
「もう、舞ったら、本当に調子が良いのね!?
でも、舞がそう言うのなら仕方ないわ。わたしはチーズケーキをお願いするわ。大き目にカットしてもらってね」

早速、“彼”とツバサ、そして裕美はヴィーナス・バイクを組み上げる作業に取り掛かった。裕美はバイクを組む作業などしたこともないから、手伝うと言っても実際は『教えてもらっている』だけに過ぎないし、ストレートに言えば作業の『邪魔』でしかない。
しかし“彼”はそんなそぶりも見せず、裕美に出来ることはたとえ時間がかかっても作業を任せ、裕美が知らないことも丁寧に教えながらパーツを組ませた。裕美の『気持ち』に真摯に応えてくれる彼の優しさに、今更ながら嬉しさと喜びを感じてしまう。
それに手や服が汚れることが無いよう、グローブやエプロンまで用意したのだから本当に気が利く人だ。女の子が機械イジリで一番嫌がるのは、機械油で手が汚れることだからだ。
舞は舞で実際に作業を手伝うことはないが、“彼”と裕美の話を隣で聞きながら、ロードバイクがどうやって組み立てられるのかを、ちゃんと理解しようとしていた。直接“手伝い”こそしないものの、機械が苦手な女の子としては十分に立派な態度だし、それに時折クッキーを差し出してくれるなどサポートの良さは相変わらずだ。
「ふー、バイクの組み立てって難しいのね。流石に疲れちゃうわ……」
「ハハハ……。慣れない仕事は緊張するから疲れますよね。それじゃ裕美さんはしばらく休んでいて下さい。これからやるディレイラーの調整は、流石に裕美さんでは無理ですからね」
「ありがとう、店長さん。お言葉に甘えさせてもらうわ」
裕美も彼が無理と言った以上、「私がヤル」等とワガママは言わない。何せ『お邪魔』をさせてもらっているのだから、その辺りは裕美だってちゃんと心得ている。
仕事は彼に任せて、舞がテイクアウトしてくれたコーヒーとクッキーをもらうことにした。
「先輩、先輩。あの店長さんって人、なかなかカッコ良いですね。素敵だと思いませんか?」
「そうね。頼りになるし、優しいもんね……」
「先輩は、あの店長さんとローランってどっちがイイと思いますか?」
「どっちって、二人とも良い人だと思うわ。本当に良い人よね……」
裕美は舞の質問にそっけなく答えるだけだった。正直、舞には彼のこと勘繰られたくない。彼ともローランとも『イイ感じ』で進んでいるが、裕美はどちらともまだ『何もない』のだ。舞と言えど、絶対に邪魔だけはされたくない。確かにローランとも友達を卒業できそうな予感はあるが、彼のこんな姿を見るとまた心が揺り戻されてしまう。どちらが良いとは、裕美にも言えなかった。
「裕美さん、舞さん、お待たせしました。バイクが組み上がりましたよ。如何ですか?」
「うわー、裕美先輩のロードバイク、自転車とは思えない程キレイですねー!」
実際にバイクが組み上がった姿を見ると、自分で考えていた以上に美しくアーティスティックなバイクだった
白いフレームには赤い薔薇が一面に咲き誇り、その薔薇はホイールにまで描かれている。少し無地の白いキャンパスを残してあって、白と赤の色のバランスも絶妙だ。
トップチューブには、裕美のヴィーナス・ジャージにもある茨を纏った金の十字架と、百合の花に囲まれた聖母マリアの肖像、そしてフランスの三色旗の紋章。ダウンチューブには”Madone”とバイクの名前が書かれている。
その姿に裕美も舞も、そして彼もツバサも息を飲んだ。
「本当に綺麗ですよ。薔薇の花でも飾って、写真を撮りたい位ですね」
「あ、それイイ! 店長さんお願いするわ!」
「ハハハ、そうですね。でも、今の内に一枚撮っておきませんか? 舞さんも撮りましょう!」
「わあ、わたしもですか!? 是非、お願いします!」
 裕美と舞は、それぞれのヴィーナス・バイクと並んで写真を撮った。二人とも会社帰りのスカート姿であったが、薔薇模様のヴィーナスにはロードバイク用のジャージよりも、むしろロワ・ヴィトン・ブランドの服やバックの方が似合うだろう。
二人とも薔薇の花束を胸一杯に持った様な華やかさに包まれていた。
「本当、素敵! 良かったわね、舞!?」
「ええ、わたしもこんな綺麗な自転車初めてです!」
「店長さん、ありがとう。私このバイクを一生大切にするわ。それでジローラモ達に絶対勝つんだから!」
"La Victoire!"《ラ・ビクトワール!》『我に勝利を!』

* * *

「ローラン、いよいよショーが始まるのね……。絶対に勝ちましょう!」
「もちろんだヨ、ヒロミ!」