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恋するワルキューレ 第二部

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「フフフ……。あのバイクはイタリアン・ロードバイクブランド"COLNAGO"のバイクです。イタリアのことはイタリア人に任せてクダサーイ。我々のイタリアン・コネンクションを使って、オーナーを探し出し"Forever"を借りる事ができたのデスヨ」
「ジローラモさん、思ったよりやるのね? でも、ごめんなさいね。わたし達はあの”Forever”以上に美しいオリジナルバイクを作ったのよ。私達のステージを見て驚かないでね!」
「ナンですって? 『ロワ・ヴィトン』のオリジナルバイクがあると言うのデスカ?」
「そうよ。わたし達には『マドンナ』がいるのよ!」
「マドンナ……? オジョウサン、『マドンナ』とは、一体何のことデスカー!?」
「ヒロミー! もうすぐ出番だヨ!」
「ありがとう、シャルル。今行くわ!
じゃあね、ジローラモさん! 私のステージを見れば分かるわ!」

ドクン、ドクン、ドクン……。
裕美はステージの裏から客席を見て緊張していた。裕美はバレエでも舞台に立った経験はあるものの、この緊張感はあの時とは比べものにならない。緊張よりもプレッシャーという方が正しいだろう。
このステージで『ラコック』のプロジェクトの成否が決まる、まさに『ビジネスの舞台』だ。
それにこのステージは自分だけでのものではない。ローランがデザインしたバイクやロワ・ヴィトンのウェア、今日のショーのために頑張ってくれたシャルル、アンリ達のために何としても勝たなくてはならない。『マドン』のハンドルを握る手に汗がにじむのは、スポットライトの熱のせいだけではなかった。
それに裕美は唯の緊張で身をこわばらせている訳ではない。今回はただステージを”ウォーキング”するだけではダメなのだ。バイクに乗ってステージに立ち、さらにヴィーナス・ジャージをもクライアントの人達にアピールしなくてはならない。
バレエでは肩や腰の角度、つま先や腕の位置、全てに『ダンサー』を美しく見せるための黄金率と方程式がある。今、裕美の中ではステージで行うべき『ダンス』が幾度と無くシミュレートされていた。
緊張もそのままに覚悟を決めた!
裕美はステージの後ろに居るローランに視線を投げる。彼も言葉は出せないものの、真剣な面持ちで裕美を見つめていた。
ローラン、見てて! 私、みんなのために頑張るわ!
裕美はアイウェアを付け、シャルルからの指示を待った。薔薇が踊る可憐なジャージに、クールなアイウェアが異彩を放つ!
「ヒロミ、スタート!」
小声でシャルルから指示が出る。
裕美は『マドン』に乗りステージに進んだ――。

* * *

「ヒロミー、おはよう。どうだい『マドン』の調子は?」
「おはよう、ローラン! このバイク、スッゴク走るのよー! バイクが変わるだけで、こんなに違うだなんて思わなかったー!」
裕美は、赤い薔薇に包まれた美しいロードバイク、『ヴィーナス・マドン』を乗り回しながら上機嫌に答えた。
「でも支店長も良いところあるよネ。『ラコック』の契約を取ったボーナスで、僕達が作った『マドン』をプレゼントするなんてネ」
「本当に、助かったわあー! 実際に買えば100万円もするのよ! 貯金も底を付くところだったわ。でも私だけ貰ってみんなにちょっと悪い気がするわ」
「今回はヒロミがプロジェクトを成功させた一番の立役者だからネ。当然だヨ。それにボクらもボーナスが出てこれを買ったのさ」
ローランは“LOOK”のバイクに据え付けられたSRMのパワーメーターを見せた。
「前から欲しかったんんだよネ。これでパワー・トレーニングをやってもっと速くなるヨ」
「イヤー、ボクはこれを買っちゃったよ!」
アンリが見せたのは、"Lightweight"という高級ホイールだ。
裕美も詳しい値段は知らないが、いずれも30万円は軽く越える高級品だ。
「すごーい! 支店長も随分サービスしてくれたのね?」
「アハハハ、やっぱりラコックの契約が取れたのが余程うれしかったんだろうネ」
「それじゃあ、シャルルは……? あーっ、新しいバイクじゃない!」
「スゴイでしょう? ボクはこのTTバイク(Time Trial Bike)を買ったんダ。でもボーナスだけじゃ足りなくて、少し足が出ちゃったんだけどネ」
アハハハ……。

「あっ、舞! こっち、こっち!」
「裕美センパーイ、お待たせですー!」
舞が裕美達にプレゼントされたバイクに乗って、そしてヴィーナス・ジャージまで来て、完全装備でやってきた。
「マイ! ジャージもバイクも、とても似合ってるヨ!」
「ありがとう、アンリ。でも、やっぱりこの格好はちょっと恥ずかしいですね」
「みんなと一緒に走れば平気だヨ。お揃いのバイクとジャージってイイね。ヒロミとマイでレースに出れば、スゴク目立つヨ!」
「じゃあ、舞。そろそろ行きましょうか? 走ったら、美味しいデザートをいっぱい食べちゃうの!」

第9話、終り。