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恋するワルキューレ 第二部

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裕美も女の子だけに、自分を褒められ持ち上げられてはガードが甘くなる。易々と彼らの射程範囲に近づかれてしまっていた。男達はジャブを次々と裕美に放ち始める!
「裕美ちゃん、おめでとう! イヤー、初めてのヒルクライムで入賞なんて大したもんだよ!」
「あら!? タカシさんが褒めてくれるなんて意外ね? いつも私のこと苛めてばかりなのに?」
「そりゃあ、褒めるって! レースで入賞なんてなかなか出来るもんじゃないよ! 俺だってまだ一度も表彰台に立ったことなんてないんだぜ」
「ええ、そうなの? タカシさんやユウヤさんだって、あんなに速いのに!?」
「そうだよ、裕美ちゃん! 男子クラスはめちゃくちゃ競争率が高くてねえ。よっぽどの実力がないと入賞なんて無理無理! 俺もロードバイクに5年は乗っているけど入賞なんて一度もないなあぁ。だからみんなで裕美ちゃんのために集まってるんだって」
「そうなんだあ……。そんな風にタカシさんに言われると少し自信が持てちゃうわね」
「そうそう。だからシャンパンも飲んで飲んで。本当はシャンパンファイトでお祝いしたいところなんだけど、それは流石に無理だからねえ」
そう言って、すがさずオサムが裕美とタカシの間に割り込んできた。
「ありがとう、オサムさん。ちょっとだけお言葉に甘えるわ!」
「裕美ちゃん、シャンパンだけじゃなく、この鴨のローストも美味しいから。蜂蜜が鴨肉とマッチして甘くて美味しいんだよ」
オサムは裕美に薦めながら、自らも嬉しそうに蜂蜜がたっぷりと塗られた鴨肉のスライスをフォークで串刺しにして口に運んでいた。
思わず裕美もあんぐりとしながらオサムを眺めてしまう。お腹のポッコリ出たオサムが、鴨肉に付いた蜂蜜を舐める姿はロードレーサーというよりもまるで“クマのプーさん”だ。実際、ロードレーサーは普通シェイプされた身体を持つものだが、オサムだけは体型が全く違う。
「オサムさん。シャンパンに蜂蜜なんて、すごくカロリーが高いんだからね。益々太っちゃうわよ。美穂姉えにまたからかわれちゃっても良いの!?」
「太ったって良いよ。みんなプーさんみたいで可愛いって言ってくれるし。太った男の人が好きな女の子も居るからね」
「やあよ。少なくとも私はそんな趣味はないわ。普通の女の子はねえ、引き締まった細身の男の人が好きなのよ」
「そんなことないって! みんな何だかんだ言って、このお腹を触るの好きでね。触り心地が良いらしくって、抱き枕みたいだってみんな言うんだよ。裕美ちゃんもどう? 触ってみる?」
「もう、止めてよ! 私はそんな趣味はないんですからね!」
「平気だってぇー。ほら、裕美ちゃん! 触ってみれば、すぐ気持ち良くなるから。」
オサムが息を荒くして、お腹をせり出して裕美に迫ってきた。
「いやぁぁ―! 私、そんなんじゃないからー! 私を変な趣味の女の子にしないでよー!」
バシィッ!
そんな裕美の悲鳴と同時に、ユウヤがオサムの頭を平手で叩いた。
「オサムー、裕美ちゃんがドン引きじゃねーか!? そんな腹してるから坂じゃ遅せえんだよ! その内、ヒルクライムじゃ裕美ちゃんにだって負けるぞ!?」
そう言って、ユウヤがオサムを押し退け裕美の隣に割り込んできた。裕美が引いた瞬間に割り込む見事な手際だ。傍から見れば、タカシ以上に油断がならない。早速、ユウヤは裕美を安心させる様な口振りで接近を図ってきた。
「裕美ちゃん、 悪かったねえ。オサムがまた変なこと言ってぇ。まああいつも悪い奴じゃないから気にしないでやって。そりゃあ確かにオサムは太ってはいるけれど、太っているってだけで人の人格まで否定しちゃいけないからねえ」
「別にそんな訳じゃあ……。私だって別にオサムさんのこと嫌いじゃあないけど……。でもちょっとセクハラ発言は止めて欲しいわぁ。女の子の扱い方を知らないんだから! ユウヤさんだってそう思うでしょ?」
「まあまあ、あれだって一種の愛情表現だから。オサムは裕美ちゃんが好きなんだよ」
「もう! それじゃ小さい男の子がすることと一緒じゃない!? 紳士として女の子に接するべきじゃないの?」
「ああぁーー、まあそうなんだけれどもねえぇ。でもみんな裕美ちゃんのことが本当に好きなんだって。俺達は確かにロードバイクが好きな連中が集まったチームだけど、それだけじゃあないんだ。みんなタカシやオサムみたいに、酒が好きで気の良い奴が集まっている訳。ひたすら酔い潰れるまで飲んで、互いに本音を言い合って、悪口も言ってっさあ。それでも付き合ってくれる連中ってのは、もう本当に信頼できる仲間なんだよね。だから俺達を応援してくれて、酒の席まで付き合ってくれた裕美ちゃんは本当の仲間だと思っているし、みんなそんな裕美ちゃんが好きなんだよ」
 ちょっと裕美もユウヤの言葉に困ってしまった。どんな形にせよ、“好きだ”と言われて心が動かない女の子はいない。確かに彼らの悪戯は困るけど、だからって嫌いという訳じゃないし……。かと言って、それを是として受け入れる訳にもいかない。
「もう……、確かに“仲間”って言ってくれるのは嬉しいけど、男の人の付き合い方を女の子の誰もが受け入れてくれるとは限らないのよ。それ位、気を使って欲しいわ」
「まあまあ。それは俺も説教しておいてやるから今日は許してあげてよ。あいつ等も男だから、可愛い女の子を見るとからかいたくなっちゃうんだってば。それに俺達ロードレーサーの場合、只の酒飲み仲間じゃないからね。愛情表現もディープになっちゃうんだって!」
「そんなの愛情じゃなくて単なるセクハラよ!」
「本当の“男の友情”だよ。だから裕美ちゃんにはちょっと誤解されちゃうんだけれどもね」
「ユウヤさん、ダメよ! そんな“男の友情”なんて言っても誤魔化されないんだからね」
「本当だって、何せ俺達は“血と鉄の盟約”を結んだ深い仲だからね」
「“血と鉄の盟約”?」
「ああ、そうさ。俺達は単にサイクリングの“楽しみ”を共有するだけじゃないんだよ。レースやロングライドの苦しさを分かち合って、互いに助け合う仲間でもあるからね。ヒルクラムを走り切った裕美ちゃんなら、レースの辛さってのが分かるでしょう?」
「うんうん、分かるわ! あの時は本当に辛かった。身体が鉛みたいに重くなって、全身痺れる様な痛みで、気を失っちゃいそうになるの! あんな疲労感は今まで感じたこと無かったわ!」
「そうでしょう。俺達もヒルクライムや耐久レースでその苦しさを一緒に感じてる訳よ。アイツが辛いなら、俺だって苦しい。俺が必死なら、アイツだって苦しみに耐えて走っている――。そんな奴らが他人の訳がないでしょう?」
「うーん、そうよね……。私だって皆を応援したくなるし、助けたくなっちゃう!」
「そうでしょう? 裕美ちゃんだってそう思うんだ。一緒に走る俺達ならなら尚更さ! だから俺達は辛くても、力の残った奴が先頭を引いて後続の連中を助けたり、逆に強い奴をアシストだってする。ツーリングだって誰かが遅れたり、トラブルに合ったら、たとえ自分が辛くても仲間を待って助けたりするのさ。この間の裕美ちゃんみたいにね」
「確かに、そうですよね……。その時のことはみんなに感謝してるわ」