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恋するワルキューレ 第二部

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「ありがとう、店長さん! 助かるわ! それでわたし達はまず何をしたらいいのかしら?」
「まずベースになるフレームを選ばなくてはなりませんね。デザインを優先するなら、カーボン製のフレームが良いと思います。フレームの種類は、鉄、アルミ、そしてカーボンが代表的なものですが、現在のカーボンフレームは大口径化してまして、つまりペイントできるキャンパスが大きいということですね。若干値段が高くなってしまいますが、デザインを強調するなら、カーボン製のフレームを選ぶのが良いでしょう」
ふーん、さすが店長さんね。そこまで考えてくれるなんて。この前のツバサ君とは大違いだわ。
「あと、ステッカーを貼り付けるなら、出来るだけプレーンな白いデザインのフレームにした方が良いですよね。それくらいのオーダーならどのメーカーも出来ると思いますが、基本的にカラーオーダーを受け付けているメーカーの方が対応が早くて良いと思います。海外メーカーならアメリカのトレック、イタリアのピナレロ、国内ならブリジストン・アンカーなどがカラ―・オーダーを受けて付けてますよ」
「なるほど……。意外とオーダーメイドを受け付けるメーカーって少ないのね……」
裕美は彼の話を聞きながら、PCのウェブカタログをチェックしていた。
ロードバイクのブランドにあまり興味のない裕美にとっては、どのメーカーのフレームでも同じようなものなので、逆にちょっと迷ってしまう。
その時、裕美の目にあるバイクの名前が目に入った――。
”Madone” 『マドン』・・・!?
「店長さん、この"Madone"っていうバイクはどうかしら?」
「それは良いと思いますよ。この『マドン』は"TREK"『トレック』というブランドのトップモデルで、ツール・ド・フランスで優勝したロードバイクなんです。このバイクでしたら知名度も非常に高いですし、ファッション・ショーでも決して見劣りすることはないと思います」
「そうじゃなくて、カワイイ名前のバイクよね?」
「えっ、カワイイ……? トレックの『マドン』がですか……?」
「そうよ。"Madone"って言うのはね、フランス語で『聖母マリア様』って言う意味なのよ。イタリア語なら『マドンナ』のことね。こんなステキな名前のバイクがあるなんて知らなかったわ。まさに『ロワ・ヴィトン』がデザインする女性向けのバイクにピッタリの名前だわー!」
………………。
“彼”だけではない。その場に居たワルキューレのスタッフの間で、しばし無言の――、微妙な空気が流れた……。
「……あのー、裕美さん。『マドン』と言うのはですね。ツール・ド・フランスを7連覇したランス・アームストロングがトレーニングをした峠の名前にちなんで付けたもので……」
「ふーん、ランスって人が付けたんだ。『マドン』なんて名前をつけるなんて、ロマンチックな人なのね。きっとジョニー・デップみたいに素敵な人なんだわぁ!」
「ランスがロマンチックですか……。
アッハハハ……。そうですよね、きっとロマンチストですよ。ハハハ……」
「それじゃあ、店長さん、"La Madone"『ラ・マドン』に決めたわ。2台お願いね?」
「えっ、裕美さん? 2台もですか?」
「もちろんよ。1台は会社のものだけど、もう一台は私のものにするの。『ロワ・ヴィトン』ブランドのバイクなんて、この機会を逃したら一生作れないわ。あとこのディープリムホイールもよ。サエコの"Forever"に負けないバイクを作るんだから!!」
そんな盛り上がっている裕美の話を、ツバサや他のスタッフが目を白黒させて聞いていた。

 ………………。
「おい、おい。裕美さんが言ってることって、嘘じゃあねえよな?」
「嘘じゃないだろう? あの人、フランス語ペラペラだって言うし、何せあのロワ・ヴィトンに勤めてるんだぜ?」
「女って怖いよな……。『マドン』を“カワイイ”なんて言う人は初めてだよ。あんな『極悪』なバイクをなあ……。
「NASAの宇宙科学技術まで使ったバイクだぜ。バリバリの軍事技術をつぎ込んでいるのにさ。トマホークミサイルやステルス爆撃機を『カワイイ』って言うもんだよ。信じらんねえ……」
「それにランス・アームストロングをジョニー・デップみたいだなんて……。レースじゃ鬼の様な形相で走ってるぜ。それに裕美さんの嫌いなテキサス生まれのもろアメリカン・ヤンキーじゃねえ? 裕美さん、本物のランスを知ったらガッカリするだろうなあ……」
「がっかりどころじゃないだろ。裕美さん、”Madone” の名前の由来を知らねえだろ?
ランスが言っていたらしいんだけどさ、
“Madone”――。このフランス語を英語にするとだな――。
“Mad One”、って分解できるだろ。
Madは狂った――。
Oneは“人”って意味だな。
つまり『気違い野郎』って意味だぜ!? ランスはシャレのつもりだったんだろうけどさあ。“気違い”はねえよなあ……」
「やべえよ。裕美さん、それを知ったら、買うのを止めかねないぜ……」
「マドンナが『気違い野郎』じゃなあ……」
「そうだな、このことは黙っていよう……。
言ったら、『マドン』のフレーム50万円。それを2台分。しめて100万円がパアになる……。
言える訳ねー!!」
でも、でも――。
 違うんだよ、裕美さん! 
 『マドン』は“カワイイ”バイクじゃねーんだよ!
 ツール・ド・フランスで9回も優勝した最強のバイクなんだよー!!
 最先端の科学技術を注ぎ込んだ、俺達の夢のバイクなんだよー!!
店長を初めとするワルキューレのスタッフ達は笑顔で裕美に応対していたが、何故か心の中では涙を流していたのだった……。
 理解されないことは、何よりも辛い――。

* * *

「ローラン! バイクは『トレック』の『マドン』っていうのに決めたの!」
「”Madone”かい。すごいバイクを選んだネ。でもフランスにちなんだ名前だし、ツール・ド・フランスで優勝しているバイクだから良いとおもうヨ。それじゃあボクもフレームのデザインを頑張らなくちゃネ。裕美、ちょっとこれを見てよ」
裕美がローランのPCのモニターをのぞくと、そこには裕美がデザインした『ヴィーナス』ジャージのグラフィック・デザインが表示されていた。
「これから裕美がくれたデザインパターンをベースにして、ロードバイクフレーム用にアレンジするからね」
「楽しみねー。ローランがデザインしてくれるバイクだから、きっと凄い綺麗なものが出来るわ!」
「ああ、絶対にヴィットリオ・フェラガモに勝たないとね。それに“チーム”はボク等だけじゃない。アンリやシャルルも手伝ってくれることになったんだよ」
「えっ? アンリにシャルルも?」
ちょうどシャルルとアンリが資料を山のように抱えてオフィスにやってきた。
「やあ、ヒロミ! ボク等も手伝うヨ」
「そうだヨ。オオブネに乗ったつもりでイイからネ!」
「ありがとう、でも二人とも自分の仕事は良いの?」
「それがネ、今回のプレゼンはロードバイクやサイクルウェアがメインだからね、特別にボク等も参加することが認められたんだ。チーム『ファランスク』の“再結成”っていうことサ!」