小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

恋するワルキューレ 第二部

INDEX|36ページ/41ページ|

次のページ前のページ
 

「デモどうしてラコックは、ヒロミのジャージに注目したのでショウ?」
「やはり当社でも女性用スポーツウェアの販売に重点を置いているということがありますね。ただスポーツウェアはどのブランドも似たり寄ったりというか、どうしても同じ様なデザインになってしまって、デザイン面で差別化が難しい商品なんですよ」
「確かにランニング・ウェアなんて、どのブランドも同じ様な物が多いですよね……。デザインも単調と言うか、地味なものが多いし……」
「北条さんの言う通りなんです。ロゴがなかったらどのブランドか誰も分からないでしょう? まあヴィヴィッドなカラーのものもありますが、あくまでモノ・カラー構成のデザインで、通常のアパレル・ウェアと比べれば、デザインとしてはかなりシンプルなものと言えるでしょう。それはラコックのウェアも同様なんです」
「しかし、実際そのようなスポーツ・ウェアが売れているのデハ……?」
「そうです。ローランさんの言う通りなんですが、やはり特に若い女性達は、鮮やかなカラーリングの服を着たいという強い願望があります。たとえ大量に販売することは出来なくても、ラコックというブランドが女性の注目を集めるためには、このような上品で鮮やかなウェアを大胆にアピールして他のブランドと差別化を図ることが必要と考えているんです」
「それでヒロミのジャージが目に止まった訳ですネ……。しかし今回は『ヴィットリオ・フェラガモ』にも同様の依頼をしているそうですネ?」
「そうです。フェラガモさんのジャージもかなり好評でして、実は今日そのジャージを見せてもらう予定なんですよ」
えー? サエコのジャージもそんなに人気があるなんて!
てっきり、ウチで決まりだと思っていたのに……。
どうしよう? プレゼンもホントにホントの真剣勝負じゃない!?

「オー、『ロワ・ヴィトン』のオジョウサン、お久しぶりデスネー。いつもキレイですネー。会いたかったデース」
「キャー、ジローラモじゃない! どうしてアナタがここに居るのよ?」
裕美達はラコックのオフィスの受付で『ヴィットリオ・フェラガモ』のジローラモとサエコに出くわしてしまった。
ヴィットリオ・フェラガモも打ち合わせに来るとは聞いていたが、それがジローラモとサエコとは!?
それにしても――、ジローラモの格好ったら、信じられない!?
原色をこれでもかって位に混ぜ合わせた派手ななネクタイに、ピンクのシャツなんか着てるし。スーツ姿でもやっぱりイタリア人はイタリア人だわ!
ううん、イタリア人でもきっと南部の田舎の人よ。イタリアでもミラノのおじ様達はこんな下品じゃなかったもん――。
「おや、どうしてココにとは心外デース。私たちも『ラコック』の人に会いに来たのデスヨ。今回のプレゼンの件でネ。あなた達もそうじゃありませんか?」
「そうだけど、 馴れ馴れしく声をかけてこないで! わたし、あなたのことが嫌いなの! 気持ち悪いわ!」
「気分が良くないのは、こっちも同じよ。またあなた達と顔を合せるなんてウンザリだわ」
そう悪態を付くのはサエコだ。
本人は気が付いていないかもしれないが、眉間にしわを寄せて本当に嫌そうな顔をしている。この前裕美達にチーム・エンデューロで負けたことを根に持っているのだろう。
「サエコさん? あなたこそ随分執念深いのね。富士チャレンジで負けたことをまだ根に持ってるのかしら? 名前だってサエコじゃなく『貞子』にした方がいいわよ?」
「ヒロミ、ちょっと言いすぎだヨ。サエコもここでケンカはマズイだろう?」
喧嘩腰の裕美に、流石のローランもちょっと引き気味だったが、『ラコック』のオフィスでケンカをしたのでは契約の話も流れかねない。ローランの言う通り、裕美もサエコも矛を収めざるを得なかった。
「ふん、随分言ってくれるじゃない。でもまあ良いわ。今度のプレゼンでは私達ヴィットリオ・フェラガモが勝つものね」
「そんな強がりは止めなさいよ。まだプレゼンもしていないのに、何を根拠に勝つなんて言えるのよ」
「それはこれが有るからよ。このイタリアンバイク、"COLNAGO"『コルナゴ』の"Forever"を忘れたのかしら?」
そう言って、サエコは用意していた自分のバイクを裕美に見せ付けた。華や蝶を、まるでルネサンス絵画のように美しくペイントしたイタリア製のバイクだ。これには流石の裕美も息を飲まざるを得ない!
「私達はジャージだけじゃなく、このバイクとのコーディネイションをアピールするつもりなの。裕美さん、残念だけどあなたの『デローサ』じゃ、このバイクには勝てないわね。赤と白のカラーリングは悪くないけど、この"Forever"と比べたら、ちょっとデザインが幼稚ですもの。御自慢のジャージだけが“浮いちゃう”わね」
「ふん、何よ! 『デローサ』のカラーこそ、女性にアピールするには一番よ!」
「ほお、オジョウサン、自信がある様ですねえ……。それでは今回のプレゼンはどちらが素晴らしいかハッキリ分かるようにしまショウ。ショー形式で今回はプレゼンを競うというのはどうですか? つまりファッション・ショーを行うのデース」
「ファッション・ショー?」
「そうです。そして、そのショーにはファッション雑誌やアパレル関係者を呼ぶのデース。そうすればバイヤー達の反応を見る事で、『ラコック』もどちらが良いかハッキリ分かるでショウ。これからラコックの担当者と会う予定です。このショー・バトルを私達が提案しまショウ。どちらを選ぶか分かり易いですし、『ラコック』も喜ぶと思いますガネ……
 オジョウサン、どうしマスカ?」
「いいわよ。そのバトル受けてあげるわ!」
「アア、こちらもそこまで言われたんじゃ、引き下がれないネ」
「オヤ? 珍しくローランまでヤル気ですネー」
「あのう、御話し中失礼します。ヴィットリオ・フェラガモのジローラモ様! 大田原が待っております。7階の応接室へ来て頂けるでしょうか?」
「おっと、もう時間デース。それじゃあ、また合いまショウ」
そう言って、ジローラモとサエコはエレベータへ消えていった。
「ローラン、それなら私達だってバイクを作りましょう!」
「モチロンだよ、ヒロミ。サエコ達に負けないデザインをネ」

* * *

裕美は早速ロードバイクショップ『ワルキューレ』に向かった。プレゼンまでに時間がない。それまでに何としても、サエコの"Forever"を上回る『ヴィーナス・バイク』を作らなくてはならない。
「店長さん、そういう訳なのよ! 何としても私達だけのオリジナル・バイクと作らなくちゃいけないの! どうしたら良いのかしら?」
「成る程……、予算と若干の手間がかかりますが、出来ないことはありません。コルナゴの"Forever"は職人の手によるペイントですが、時間的な問題を考えると、裕美さん達の場合、コンピューターでデザインした絵柄を専用のステッカーに印刷して張り付ける方が良いでしょう」
「分かったわ! コンピュータデザインはロワ・ヴィトンのデザイン部門が何とかしてくれるから大丈夫よ」
「それでしたら問題なく出来ますよ。僕も出来るだけのことはしますから、何でも言って下さい」