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恋するワルキューレ 第二部

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裕美は写真を見て、顔を赤らめたり、困った顔をして一人身悶えしているが、他の参加者達はプロジェクトの成否がかかっているだけに、写真を何枚も並べて見比べたり、食い入る様に見たりと、真剣な面持ちで裕美の写真を見ている。
ああん! もう、止めてー!
こんな羞恥プレイをされるなんて、考えても見なかったー!

「それじゃあ、アンリ。ラコック側からどの様な要望があったのか説明してくれないか?」
「ハイ、先程パリの担当者と話をしたのですが、『ラコック』のパリ本社としては、直接来日し、日本人のファッション志向を把握して、女性向けスポーツウェアのマーケティング方針について検討したいとの要望があるようデス」
「うむ。だがどうしてヒロミや、ヴィットリオ・フェラガモのジャージが注目されたんだい?」
「みなさんは既にご存知だと思いますが、今回ラコックは日本市場での販売戦略として、スポーツ用品店を通して売るのではなく、デパートやファッションビルに自社店舗を設けて売るという、アパレル・ブランド型のファッション路線を採る方針デス」
「うむ、それは知っている。だから提携先の候補として日本のスポーツメーカーではなく、ロワ・ヴィトン・ジャパンやヴィットリオ・フェラガモが選ばれたということもね」
「その通りデス。先方の話によると、日本市場はヨーロッパやアメリカと商品のニーズがかなり違っていることは把握していたようで、具体的にどのようなデザインのスポーツウェアやサイクルウェアを導入すべきなのか以前から検討されていたようデス。特に日本人女性はデザイン志向が強くて、鮮やかなカラーリングの服が好まれますからネ」
「ナルホド、それでヒロミとヴィットリオ・フェラガモのジャージが注目されたということかな?」
「そうです。二人のジャージとも、鮮やかなカラーリングに加えて、花や蝶を模したデザインなど、ヨーロッパのサイクル・ウェアにもないものだと言うことで、非常に驚いたそうデス。日本市場のマーケティングのために是非参考にさせて欲しいということでしタ」
「なるほど……。それにしてもヒロミのジャージは、ロワ・ヴィトンの商品のデザインと似ているね……。これはヒロミがデザインしたのかい? 素晴しいデザインだね。とても似合っているよ」
「あ、ありがとうございます……。お褒め頂いて恐縮です……。実はロワ・ヴィトンのスカーフを参考にして、作ってみたんです……」
「ロワ・ヴィトンのスカーフか……。それは驚いたな。それならデザイン面でも提携して商品開発もできるね。『ロワ・ヴィトン』ブランドのアイテムを『ラコック』と共同開発するというのも悪くない。今度のプレゼンでは、ラコックのウェアのセレクションだけではなく、ウチからもデザインを提案したいと思うが、みんなどうかな?」
「いい考えですね。ラコックとの提携もプッシュできるし、ロワ・ヴィトンのブランドの相乗効果が狙えるでしょう。ローラン、デザインはお願いできるかい?」
「モチロンです。時間はありませんが、至急準備しマス」
「ヒロミ、今回のプロジェクトには君も参加してくれるかな? 今回のプレゼンも、君のデザインしてくれたジャージのおかげなんだ。是非頼むよ!」
「"Oui, Monsieur."《ウィ、ムッシュ》 もちろんです。出来る限り、お手伝いさせて頂きます」

* * *

「初めまして、『ラコック』の大田原と申します。すみません、わざわざお越し頂きまして。パリから話は聞いています。サイクルジャージの件ということで――」
裕美とローランは、早速『ラコック』の東京オフィスを訪問していた。今回のプレゼンやマーケティング戦略についてのヒアリングと、もう一つ、裕美の『ヴィーナス・ジャージ』の実物を渡すためだ。
「ほう、これが例のジャージですね。素晴らしいデザインですねー。さすが『ロワ・ヴィトン』さんだ。これをデザインされたのが北条さんですね?」
「はい。あくまでわたしがプライベート用にデザインしたものですが、ロワ・ヴィトンの商品をモチーフに作っていますので、ロワ・ヴィトンのイメージが強く出ていると思います」
「成る程、さすが女性ならではのデザインですね。是非、このようなウェアをウチでも売りたいものです。実際、わたしの女性の知り合いも中々気に入ったジャージがないと困ってましてね。このジャージも彼女らに見せたい位ですよ」
「えっと……、女性の知り合いがジャージって、もしかして大田原さんもロードバイクに乗るんですか?」
「ハハハ……、実はそうなんです。ご存知の様に今回ラコックはサイクル・アパレルも扱うものですから、趣味が合うとか言う理由でわたしに声がかかりましてね」
「そうだったんですかあ! 嬉しいわあ。取引先で同じ趣味の人が見つかるなんて! あまりロードバイクに乗る人って、あまり居ないですもんね?」
「そうですね。ロードバイクって日本じゃまだマイナーな趣味ですからね」
そうよね。確かに大田原さんて、細身だけど筋肉質で日に焼けてるし、若くて精悍って感じで、いかにもロードバイクに乗り込んでるって感じだわ。店長さんやツバサ君とイメージがだぶるわね。
店長さんがスーツを着たら、こんな感じになるのかしら? こうゆうのもアリよね。良いわあ……。
「それにしても、ラコックもちゃんと大田原さんみたいにロードバイクを知ってる人を選らんでくるんですね? これなら良い仕事が出来そうだわ。
ね、ローラン?」
「ああ、そうだネ。大田原サンは仕事も出来るってアンリから聞いてるし、ボクも楽しみだヨ」
「いえ、そんなわたしなんか、まだまだですよ。実際若いのに大丈夫かとも会社から結構言われたんですが、何せ会社でロードバイクが分かる人間が他に居なかったもので……」
 えっ……? 大田原さんって確かに若い人だけど、それがどうかしたのかしら?
 裕美がちょっと不思議に思い、名刺の肩書を確認した。
『ラコック日本支店総代理人――』
「ええっ! 総代理人って? あのー、大田原さんがラコック日本支店の社長ということになるんですか?」
「ハハハ……、一応、そうゆうことになります。若く見られて仕事であまり得することはないんですがね」
「大変失礼しました。本当にお若く見えたものですから、つい……」
「同じローディー仲間じゃないですか。、気にしないで下さい。それにわたしもまだ30後半ですから、そんなに歳も離れてませんよ」
「いえ……、大変失礼しました……」
びっくりしたわー!? 30前後に見えたもん!
ロードバイクに乗ってる人って、やっぱりみんな若く見えるわね……。
「まあ、歳のことは気になさらず、北条さんもローランさんも気軽に話しかけて下さい。わたしもその方がやり易いですしね」
「いえ、そんな失礼なことはできません。それに今日は仕事の話をしに来たんですから、趣味の話はこれ位にしておきましょう。
ね、ローラン?」
「ハハハ……。ヒロミ、そうだね、仕事の方が大切だよネ」
もう、ローランまで、そんなに笑うことないじゃない!
ローランの意地悪ーっ!

 3人は仕事モードに切り替えて、今回のラコックの意向について話を始めた。