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恋するワルキューレ 第二部

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「こちらがANCHOR『アンカー』という国内最大手のブランドで、あのタイヤのブリジストンの系列メーカーということもあって信頼性が高くて人気があるんです。サイズも豊富にあるのも、背の小さい日本人女性には嬉しいですね。
それからこちらのモデルが、GIANT『ジャイアント』というブランドです。台湾製ですが、世界最大の自転車メーカーで、ツール・ド・フランスにもバイクを供給している位ですから性能も上質で、おまけにお値段もお手頃ですので結構人気があるんです。
舞さん、如何でしょう?」
「…………」
舞は何故かツバサの質問にも答えず、ちょっと渋い顔をしている。
「ちょっと舞、どうかしたの?」
「あのー、センパイ。大きな声じゃ言えないですけど、あまりステキな自転車ってないですね……」
「舞、ちょっと!?」
「お客様、聞こえてますよー。正直で良いですねー、アハハハ……」
 ツバサは笑っているが、目は笑っていない。本音を隠すことが出来ないのは、本当にツバサらしい。
「えー、でも裕美センパイだったら、この女性用ロードバイクって買います?」
「それは……、私もちょっと嫌かな……」
「そんなぁ! 裕美さんまで!」
裕美が首を傾げるのも無理はない。ツバサが勧めてくれた女性用のロードバイクは、カラーリングも男性が乗るロードバイクと全く同じで、黒や白を基調とする地味なバイクだったからだ。青や赤のカラーのバイクもあるが、裕美の『デローサ』やローラン達の乗る”LOOK”のようなエレガントさの欠片もない。これがなぜ『女性用』なのか女の裕美としても理解に苦しんでしまう。
「でも、ツバサ君。私の『デローサ』みたいな綺麗なバイクはないの?」
「裕美さんまで何を言うんですか!? あの『デローサ』は30万円を超えます!!ヘルメットやウェアを全部揃えれば、40万円ですよ。予算的にエントリーモデルを完全に超えてしまいます!」
「えー! 裕美センパイの自転車ってそんなに高かったんですか!? そんなあ、私のお給料からじゃ、そんなに出せませんよ! センパイどうしよう……?」
えー、そんなあ。私にどうしようって言われても……。
店長さん、ローラン、助けてー!

* * *

「ローラン、舞とそういう話があったのよ……。舞がロードバイクに興味を持ってくれたのは嬉しいんだけど、バイクを買うのはちょっと難しいかも知れないわ……」
「うーん、それは残念だネ……。女性でもロードバイクに興味を持ってくれる人は多いんだけど、ロードバイクが高いってことで、なかなか踏み切れない人が多いんだよネ。古いパーツなんかをもらったりして始める人もいるけど、もらえるパーツも限られちゃうからネ……」
「そうね、私も少し貸せるかもなんだけど……」
「それにフレームのデザインも難しいネ……。日本の女性に合ったサイズを用意しているメーカーは少ないし、エントリーモデルはコストの問題でカラーリングもシンプルになるからネ。マイの好みの合ったバイクは見つけられるカナ……?」
「そう言えばローランは、あのサエコの乗っていたバイクを知っている? あんなバイクはどこで売っているのかしら?」
「ああ、"Colnago"の"Forever"だネ。あのカラーリングは綺麗だけど、あれは限定生産でもう売っていないんだヨ。それに170万円もするくらいだからネ」
「170万円!! それは絶対無理よね……。ジャージみたいに、自分でデザインできるバイクはないのかしら?」
「うーん、『トレック』っていうメーカーならある程度自由にデザインできるけど、やはり高級モデルに限られてるしネ……」
そうなんだあ……。
ローランまでもがそう言うのでは仕方ない。万策尽きたと言える。
裕美としても舞の気持ちはよく分かる。裕美ももし今の『デローサ』がなかったらロードバイクに乗ろうとは考えもしなかっただろう。
「ロードバイクにファッションなんか関係ない」という人もいるかも知れないが、そんな体育会系社会主義的な人は、裕美と話しが通じることもないだろうし、アダムとイブの甘い香りを感じることも出来ないだろう。
可愛いバイクが欲しいという舞の気持ちは分かるし、それだけに裕美としても舞のことは放って置けなかった。
でも、どうしたら良いのかしら……。
そんな裕美が思い悩んでいる時、アンリが慌てた様子でオフィスに飛び込んできた――。
「ヒロミ、探したんだヨ! 大変なんダ! 『ラコック』からメールが届いたンだヨ。是非ヒロミにって!」
「えっ? ラコックが私に? 一体、何かしら?」
裕美は心当たりもないので、ちょっと驚いた。
『ロワ・ヴィトン』と『ヴィットリオ・フェラガモ』が、『ラコック』の日本進出に際して提携関係を結ぼうと争っていることは知っている。しかし裕美はこの件については全くタッチしていない。
「それがヒロミのジャージを見たいって、ラコックが言っているんダ!」
「わたしのジャージ? 『ヴィーナス・ジャージ』のこと? でもそれが一体……」
「ラコックのマネージャーが、チーム・エンデューロの写真を見て、裕美のジャージを気に入ったらシイ。来月日本に来る時に、そのジャージを見せて欲しいと言ってるんダ!」
「エクセラン! ヒロミ、ヤッタじゃないか? これで代理店契約も有利になったネ!」
「ローラン、喜ぶ訳にはいかないんダ! 話はまだあるんだヨ。
実はラコックはサエコの着ていたジャージも興味があるみたいなんダ。ウチとヴィットリオ・フェラガモに、ジャージのデザインでプレゼンをするように依頼してきたんだヨ!」
えー! サエコ達とまたバトルになるの? しかもジャージのプレゼンって……? 
もしかして、わたしのヴィーナス・ジャージで、ラコックの契約が決まっちゃうの?
裕美にとっては、思いもよらない展開にだった。
『ロワ・ヴィトン』の一大プロジェクトの成否が、突然裕美の肩にかかったことになる。
どうしよう? 大変なことになっちゃった……。

* * *

突如『ラコック』日本進出プロジェクトのメンバーに加えられた裕美だったが、何がどんな事情でその様な話になったのかも分からない。
早速ミーティングが開かれ、アンリからラコック側の要望が説明されることになった。
もちろん裕美もそのミーティングに参加することになったが、回りを見るとロワ・ヴィトンの日本支店長を初め、役員や部長クラスの面々が勢揃いしていている。
資料が参加者に配られ、会議が始まったが、その書類を見て裕美は驚きの余り口をパクパクとさせ泡を吹きそうになった。
参加者全員に裕美がヴィーナスジャージを着た写真が配れらている。
しかもボディラインが丸見えになる恥かしいレーパン姿だった。
きゃー! みんな見ないでー! 見ちゃイヤー!
アンリったら、どうしてこんな写真を配るのよー!?
一生、恨んでやるんだからー!
こんなことになるなら、もうちょっとメイクをしっかりやっておくべきだったわ……。カメラのアングルだってもう少し……。
あーん、それより私の身体のラインが丸見えじゃない。恥ずかしい!
こんな写真をみんなにジロジロ見られることになるなんて……。