恋するワルキューレ 第二部
チーム『ロワ・ヴィトン・ジャパン』!」
表彰式でアナウンスの声が空高く響き渡る。
もちろん表彰台の中心に、裕美が、ローラン、アンリ、シャルルと共に満面の笑顔を携えて立っていた。
「キャー!! ローラン! 優勝おめでとう!」
「アンリー! シャルルー! こっちを見てー!」
ロワ・ヴィトン応援団の黄色くも甲高い声が会場に響く。
「おお、あの“ヴィーナス”の女、また表彰台だよ……」
「色白い! 長い髪、カワイイなあ……」
「結構、美人じゃん……。ああゆうキレイ系は、ローディーにいないもんなあ」
男達がざわめく声も会場内で聞こえていた。
会場もちょっと不思議な雰囲気だ。女達の黄色い声援と男達の太い声が入り混じる光景は、まずスポーツの表彰式では見ることは出来ないだろう。
それに表情台の上も、まるでファッションショーの様だ。
表彰台の中心には裕美が、ローラン、アンリ、シャルル達、フレンチ・ギャルソンを従えて威風堂々とばかりに立っている。
180cmを超える外人が3人も揃えば表彰台でも一際目立つし、ローラン達『三銃士』を従える紅一点の裕美は、そのストレートヘアをなびかせ、赤いヒール履きポージングを決めている。とてもアスリートとは思えない。ファッション・モデルの撮影の様な光景だ。
各チームにメダルが授与され、裕美達の“ファッションショー”がフィナーレを迎えた。
「優勝できたのはキミのおかげだよ。”Mercy, Hiromi!”」
「”Mercy beaucoup, Laurant!”《ありがとう、ローラン!》」
そう言って、裕美とローランは表彰台の上で、頬に軽いキスをし合ったのだった。
きゃあ、ヤッタ、ヤッタわよー!
続いて、シャルルとアンリとも頬にキスした。
キャアー、うれしい!
最高に幸せー!
フランス人としてはこの程度の軽いキスはフィナーレの『お約束』程度のものだが、まだ恥らい気味の裕美としては天にも昇る気持ちになってしまう。
しかもローランと一緒に頑張ったレースでの優勝だから、お互いのキズナも深まったことは間違いない。
そうよ! 次のステップまで、あと一押しよ!
フフフ……。
次はローランとディープなフレンチキスもしてみたいわよね……。
第8話、終り。
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第9話『ヴィーナス・オン・ステージ! 〜 美しきその名は"Madone"《マドン》』
『ローラン、アンリ、シャルル、こっちよー!』
『ヒロミ、マイ、今日は”fete”《フェット》〈フランス語でパーティー〉を開いてくれて、ありがとうネ』
『お礼は舞に言って。舞がお店の予約も連絡も全部やってくれたんだから!』
『エヘッ、大したことありませんよー。みんな昨日のレースで疲れてるでしょうから、わたしがこれくらいしませんとね。今日は個室を予約しましたから、幾ら騒いでも大丈夫ですよ』
『サスガ、マイ監督! 昨日はホントありがとうネ! レースのサポートが上手くて本当助かったヨ』
『マイって、本当に気が利くよネ。フランスやイタリアの女の子じゃ、こうはいかないヨ』
『本当、日本人女性の鑑だヨ。日本人の奥さんが最高だって言うけど本当だネ』
『わあ、みんなお世辞が上手ですね。照れちゃいますよー』
裕美、ローラン、アンリ、シャルルの4人は、富士スピードウェイで行われた『4時間チーム・エンデューロ』のすぐ次の日に、早速祝勝会を開いたのだった。
ちょうどレースの次の日が祝日だったこともあり、みな時間が空いていたこともあったが、何よりみな優勝して興奮冷めやらぬ中、この”fete”《フェット》を待ちきれなかったのが一番の理由だ。
今回、裕美の後輩である舞はレースには参加していないが、裕美との『淑女協定』によって特別に参加することが許されていた。
本来レースに出場していない人が一緒にいても、話に加われず場を盛り下げてしまうので、この場に居るのは本来『ご法度』だ。だが舞は裕美の後輩でもあるし、マネージャー役としてレースをサポートしてくれお礼もあって、誰も意を唱えることなくこのパーティーに参加出来た。
舞は、裕美のお相手であるローランを取られる心配もないし、何より本当に“良く出来た”妹だと裕美も自慢したい位だった。
舞もその辺りは十分に承知している。自分が『脇役』であることを分かって、あくまでサポート役に徹し、この“フェット”のアレンジまでしてくれている。裕美も後輩の“ソツのなさ”に関心してしまう程だ。
『それじゃあ、始めましょうか? 優勝したんだから、まずはシャンパンよね!』
『任せて下さい。ちゃんと良いシャンパンも用意してありますよ』
『みんな、昨日はお疲れ様。そして優勝おめでとう!』
それじゃあ――、
“A nos victoire !” 『わたし達の勝利を祝って!』
“A votre sante !” 『あなたの健康を祝して !』
『ロワ・ヴィトン・チームの優勝を祝って、カンパーイ!』
『カンパーイ!』
カチン、カチン! カチャン!
5人が一斉にグラスを叩き、シャンパンを飲み干した。
『フーッ、美味しいわー!』
『サイコーだね、ヒロミ!』
『ホント、ローラン! 最高に幸せー!!』
『さあ、料理も沢山用意してありますから、いっぱい食べて下さいね』
『もちろんダヨ』
『シャンパンのおかわりもネ。たくさん食べちゃうヨ』
『そうよね! それじゃあみんな頂きましょう!!』
“Bon appetit !”《ボナペティ》 『たくさん、召し上がれ!』
『見てー、この写真! メインストレートの所よ。このバイクはローランかしら?』
『ああ、こっちは表彰式の写真だネ。これはボクもプリントして欲しいナ』
『キャー、ジローラモの写真もある! ちょっとイヤー!』
『ハハハハ……。彼の写真はちょっと遠慮したいよネー』
メインディッシュもあらかた食べ終わると、舞が撮ってくれた写真で“フェット”は再び盛り上がりを見せていた。これも舞がレースで撮った写真をプリントアウトしてくるなど、“気を利かせてくれた”おかげだ。
『裕美の“ヴィーナス・ジャージ”、カッコよく写ってるネ。クールだヨ!』
『でも日本人の友達には”エロイ"って言われてるのー!』
『”エロイ”? ヒロミ、フランス語で何て言うんだい?』
『ローラン、それはねー……』
ゴニョ、ゴニョ……。フン、フーン……
『アハハハーー! そうゆう意味なんだーー!!』
『後は『ラコック』の契約が取れれば最高だネ』
『そうだネ。早速、表彰式の写真を送らなきゃネ』
『おっと、この写真はジローラモ達が入ってしまっているヨ。まあ『ヴィットリオ・フェラガモ』チームが2位だから仕方ないケドね』
『あー、ジローラモの顔、オカシー! 喜んでいるけど、全然眼が笑ってないわ。負けて相当悔しかったのね』
アハハハ……!
そんなレースの話は尽きることがなかった。
ちょっと残念なのは、5人で話が盛り上がり過ぎて、ローランと二人だけで話せないことだけだ。
でもイイわ。アンリやシャルルもステキだし、ローランとも次はもう少しゆっくり二人きりになれば良いわ。
『おっと、マイも写ってるよ!』
作品名:恋するワルキューレ 第二部 作家名:ツクイ