小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

恋するワルキューレ 第二部

INDEX|29ページ/41ページ|

次のページ前のページ
 

「何ですって! ムムム……、思ったよりヤルじゃアリマセンカ……。まさか“チャンピオンのトレイン”に利用するとはネ……。でもそれならワタシ達も、そのトレインに乗れば良いことデース」
「あら、それが出来るかしら? 今から先頭集団のトレインと周回のタイミングを合わせられるの? それに『クラブ・クワトロ』とローテーションを組めなくなっちゃうわよ? それでもわたし達に勝てるって言うのかしら?」
「ぬううぅ……」
「観念しなさい! わたし達『ロワ・ヴィトン』の勝利は揺るがないわ!」
――――――。
「ちょっと、待ちなさい!!」
サエコだ! ジローラモが悔しがっている姿をヨソに、裕美に噛み付いて来た!
「裕美さん! もう勝った気になってるけど、イタくて見てらんないわ」
「何よ? 今更、強がって何が出来るのよ?」
「どうかしら? 最後に私と直接勝負しない? たとえ『ロワ・ヴィトン』チームがウチに勝っても、もう私の知ったことじゃないんだけど。あなたが私に勝ったなんて思われても困るのよね?」
「サエコが? イケマセーン、ダメデース! タイムを競うなら、男性がより多く走った方が有利デース!」
「ジローラモ、黙ってなさい! そもそもあなたが男性3人の中で一番遅かったんだからね! それにあなたの言う作戦も失敗してるじゃない! わたしがあなたのフォローをする羽目になったのよ!」
「スイマセーン……。サエコ、怒らないでクダサーイ……」
「裕美さん、どうかしら? わたしとのマッチ・プレイを受ける?」
「イイいわ。“クレオパトラ”には男性運と勝負運がなかったってことを教えてあげるんだから! どうせあなた男もいないんでしょう?」
「アンタ、引っ叩かれたいの? 何を根拠にそんなこと言ってるのよ!?」
「ええーっ、だって、そんなの見れば直ぐに分かるわ!」
裕美はそう言って、ジローラモに視線を当てた。
 隣に居る男がそれじゃあね……。
「サエコ、大丈夫デース。サエコにはワタシが居マース。アントニウス役はワタシがピッタリじゃありませんか?」
「誰がアントニウスよ!? アンタ、本当に死んでなさい!!」
 バギッ! バギッ!

『ちょっと! ヒロミ、本気かい?』
サエコとの直接対決の話を聞いて、ローランもアンリもさすがに驚いた。
『ローラン、ゴメンなさい……。勝手に約束しちゃって……。
でも隣のサエコを見て!』
サエコは隣のピットでローラー台に乗り、ウォーミング・アップを始めている。サエコが出ると言うのは、どうやらフェイクではなく本気の様だ。
『もし私が走らなかったら、私だけじゃなくて、ローランだって逃げたって言われちゃうわ!』
『……そうだよね、ボクらが出てサエコに勝つのは当たり前だからネ。ボクらが走ることは卑怯だと言われるよネ……。
分かったヨ! ヒロミに全部任せよう! アンリ、それで良いかい?』
『もちろんだよ、ローラン。ヒロミは“女神サマ”だからネ。きっと勝つサ』
『もう、アンリったら、こんな時ばっかり“女神サマ”なんて! もう2度と『フェチ』なんて言わないでね』
『もちろんだヨ。“ヴィーナス様”!』
『今度は“ヴィーナス様”? 本当に調子良いわね!?』
フフフ……。
アッハハハ……。
『それじゃあ、ヒロミはローラー台でアップして。10分だけでもイイから!』
『”Oui!”《ウイ!》任せて!』

『ヒロミ、もうすぐシャルルが戻ってくる。準備をして!』
『”D'accord”《ダコール》分かったわ!』
裕美はローラー台を降りて、シャルルがピットインして来るのを待った。
ドクン、ドクン、ドクン……。
不安と緊張から、胸の鼓動が高まる……。
ローランの為に頑張らなくちゃ……。アンリとシャルルの為にだって……。
『ヒロミ、リラックスして。みんな応援してるから大丈夫だヨ』
『ローラン。あの、わたし……、わたしね……」
ああ……、戦いに行く男の人ってこんな気持ちになるのかしら? 不安になるとローランのことがとても愛しくなってくるわ……。
ローラン、ローラン……。
『わたし一生懸命走るから! だからローラン、わたしのことを励まして!』
そう言って、裕美はローランの頬に軽くキスをした――。
キャー!! キャー!
応援団から、激しいブーイングが起きる。
でもそんなことは構っていられない。自分を勇気付けるためにも、ローランと何かが欲しかった。
その時、シャルルがピットインした。
『じゃあ、ヒロミ、頑張って!』
『ええ、ローラン。行って来るわ!』
計測チップを受け取り裕美が走る。ペダルを踏み込む!
少し遅れて、『ヴィットリオ・フェラガモ』チームからサエコが出走した。
残り時間はあと15分程度しかない。周回数にすればわずか2周。
そうよ、この2周で勝負を決めるわ!

裕美はメインストレートを駆け抜けると、第1コーナーを回り、傾斜マイナス10度の下り坂を一気に駆け降りる!
姿勢を低くし空気抵抗が低くなるエアロポジションを取れば、時速60km/h近くまで出せる急坂だ。男のロードレーサーでも慣れていない人なら、こんなスピードは出せない。
 だが『スピード・ラバー』の裕美は臆することなく、このダウンヒルを滑り降りた。
すぐさま裕美は前方をチェックする。
続くS字カーブ、コースに“遅い集団”の邪魔がなければ、下りのスピードそのまま、このS字コーナーをクリアすることが出来る。
前方に障害なしよ! 裕美はペダルを高速回転させながら左右にターンを決め、S字コーナーをパスした。中には男性さえも抜いてる。どうやら裕美の『スピード・フェチ』は本物のようだ。
次は短い登り区間だ。裕美はフロントのギアを落とし、ダンシングを交えながら坂を登る。
しかし登った後には、また長い下り――、そして最後には傾斜約8%の激坂が500mも続く。更にはダンロップコーナーと呼ばれる直角のカーブが選手のコーナリング・テクニックを試すのだ。もうこの富士スピードウェイは本当に息を付く暇もない。
この富士スピードウェイは、平面図のコースレイアウトを見れば比較的単純なコースと思われがちだが、その高低差は約40メートルもあり、上りと下りの速度差は50km/hを超える超ハードコースだ。
実際クルマのレースでさえも、その余りの登りと下りの落差のためセッティングに難が残り、走りに支障を来たすと言われる程で、事故が多発する難コースの一つとしてその名を馳せている。
裕美はダンロップコーナーを抜けて最後の坂を登った。
長い長い坂だ――。ここでダンシングを使い過ぎては、最後まで持たない。途中で息を切らさないようサイクル・コンピュータで心拍数をチェックしながら、シッティングも交えて一定のペース走る。
F1等の車のレースでは、さも平地と同じ様に走って見えるが、自転車ではこの坂で時速10km/h台までスピードが落ちてしまう。
しかし――、遂にサエコが来てしまった。
最終コーナーの坂の所でサエコが裕美に追い付いた。
やはりまだ実力ではサエコの方が上のようだった。
「裕美さん。残念だけど、坂では私の方が速いみたいね。残りの1周で抜いてあげるわ!」
裕美も呼吸をするのに精一杯ではあるが、サエコに言われては黙っていられない。