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恋するワルキューレ 第二部

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「別にあなたの秘密なんか知りたくもありません。まずはジッパーを上げて、その胸毛を隠してから言って下さい。胸毛が好きな日本人の女の子はいませんから、これ見よがしに見せないで下さい!」
「オジョウサン……、あなたそこまで言うのデスカ? カワイイ顔をしてるのに、逆セクハラですかー!」
「ちなみに、その“濃い顔”もわたしの好みじゃありません!」
ワハハッハ……。裕美やローランも一斉に笑い出した。
 舞、その通りよ! もっと言っちゃえー!!
「ちょっと、待ちナサーイ! 顔は関係アリマセーン!! あなた達も知りたいと素直に言えばイイのに……。仕方アリマセン。あなた達を逆転した戦略を教えてあげましょう」
 誰も知りたいとは言っていないのに、よっぽど自慢したかったのだろう。ジローラモは滔々と得意気に語り始めた。
「私たち『ヴィットリオ・フェラガモ』チームは、3位だった『クラブ・クワトロ』と協力してあなた達と勝負することにしたのですよ。つまり同盟を組んだのデース」
「何よ、他のチームと組んでウチを叩くなんて、卑怯じゃない? フェアに勝負しなさいよ!」
「フフフ……、オジョウサンはロードレースを知らないようデスネー!? ロードレースは1対1の戦いではありませーン。10以上のチームがひしめくバトルロイヤル方式なのデース。当然そこでは自分達のチームが優位に立つため、お互いに共同戦線を張って敵と戦うこともアリマース。その作戦と駆け引きがロードレースの醍醐味でもあるのデース」
「だったらローラン! ウチだって他のチームと!」
「待って、ヒロミ。それは簡単じゃないんダヨ……」
「ローランの言う通りデース。お互いに協力してローテーションを組むにはお互いの実力が近くなくてはなりまセーン。それにこの富士スピードウェイはアップダウンが激しく実力差が出やすいコースでーす。パートナーを見つけるのも簡単ではありませセーン。ところが私は気が付きマシタ――」
ジローラモは2枚の紙を取り出し、裕美達に見せ付けた。
「これは『ヴィットリオ・フェラガモ』と『クラブ・クワトロ』のラップタイムです。これで誰がどの程度の走れるかが分かりマース。このタイムを比べて、お互いのチームでローテーションを組むパートナーを決めて走ることにしたのデース。まさに最高の組み合わせデシタ」
「エエっ? でも1位のわたし達とタイムが合うチームだなんて……」
「フフフ……。その通りデース。あなた達と組めるチームはもうありまセーン。仮に4位のチームと組んでも、むしろ足を引っ張られるだけデース。私達のマネをすることはデキマセーン。あなた達のペアとなる相手はもういないのデース。
フフフ……、だから私達の作戦を教えたのデスガネ」
「ローラン、わたし達どうすれば良いの? ラコックの契約はどうなっちゃうの!?」
「どうすることもデキマセーン。それでは失礼シマース」
 ワハッハハハ……。ジローラモ達はさも勝ったとばかりに、高笑いをしてピットに戻って行った。
『ヒロミ、ピットに戻ろう……』
『そんなぁ、ローラン。このままじゃ負けちゃうわよ。それで良いの……?』
するとローランは裕美の耳元で小さくささやいた。
『ヒロミ、ちょっと調べて欲しいことがあるンダ。もしかしたら、まだ逆転できるかもしれない……』
『えっ、本当? わたし達勝てるの!?』
『ああ、上手く行けばネ……』

ローランがサーキットから戻ってきた。
『ローラン、お疲れさま! スゴク速かったわ!』
『ハア、ハア……。ありがとう、ヒロミ。いい感じで“トレイン”に乗れたヨ。で、タイムはどうだい?』
『ええ、ローランが頑張ってくれたから、ついに来たわよ! 見て見て、このタイム!』
『オー! ついにヤッタネ!』
イエーィ! パン! パン!
裕美やローラン、アンリは印刷された順位表を見て、互いにハイタッチを決めていた。それにロワ・ヴィトン応援団もキャーキャーと歓声を上げながら大騒ぎだ。
…………。
「ジローラモ、何か変じゃない? 『ロワ・ヴィトン』のチームが随分騒がしいんだけど……」
「ソウデスねえー、私達の見事な作戦勝ちでシタ。これで『ラコック』の契約が一歩ワタシ達に近づきマース」
「ジローラモ、私の話を聞きなさいよ! そのローラン達がかなりご機嫌な様子よ! ちょっと変じゃない?」
「オット、サエコ怒らないでクダサーイ。『ヴィットリオ・フェラガモ』の勝利は間違いアリマセンが、4時間エンデューロの終了まであと30分デース。一応順位とタイムを確認しに行きましょうカ?」
そう言って、ジローラモとサエコはキーボードを叩いた。
「そんな馬鹿な! 信じられナーイ!」
「何よ? 一体、どうなっているの!?」
モニターには、『チーム・ロワ・ヴィトン』が1位と表示されていた。ほんの1分程度の差だが、逆転して1位に返り咲いている!
彼らは一体どうやって私達を逆転したんデスカ? ドウシテ、ドウシテ……?」
「あら、ジローラモにサエコさん? わたし達がまた1位になったわね。驚いたかしら?」
裕美がちょっとわざとらしく、後ろから声をかけた。
「あなた達! 一体何をしたのデスカ? 一緒に走るチーム等ないはずなのにー?」
「そうよ、一緒にペアを組めるチームはないわ。男性だけのチームもいるけど、女の私がどうしても遅れちゃうから互いに連携することは出来ないの。
でも――、ソロのエンデューロで参加している人は別よ」
「ソロの選手? オジョウサン、アナタは何を言っているのデスカ? ソロで出場している選手はピットインしまセン。4時間ずっと走り続けるのデスヨ。だからペアを組むことなど出来ないはずデース」
裕美はさっと、プリントアウトした1枚の紙を見せた。
「これを見なさい。ソロのエンデューロで今トップを走っている人のラップタイムよ。1周当たり6分30秒で、まるで砂時計の様に正確なタイムで走っているの。平均時速43.5km/h! 本当、すごいわね。わたしの倍近い速さで走っちゃうんだから!」
「ううっ……。それが一体どうしたと言うのデスカ?」
「あら、これを見てもまだ分からないの? あなたが知りたいって言うなら、教えてあげても良いけど、どうかしら?」
「べ、べつに、知りたくありまセーン! わたしは既にスルっとマルっと、あなた達のトリックは全てお見通しなのデース!」
「ふーん、じゃあ教える必要はないわね。わたし帰るわ!
さ・よ・な・ら、ジローラモ・さんっ!」
「オジョウサン、待ちなサーイ。帰って良いとは言ってマセーン。……少しだけ話して下サーイ。このまま負けてはサエコに殺されてしまいマース」
「じゃあ、教えてあげるわ。簡単なトリックよ。
ソロのトップの集団は、およそ6分30秒。毎周10秒前後しか違わないで走っているわ。一周当たりの走行時間が正確だから、何分何秒にメインストレートを通過するか簡単に計算できるの。だからわたし達は、ローラン達がこのトレインの後ろを付いて走れるように、走る順序と周回数を調整したのよ。全員がこのトレインに乗れる訳じゃないけど、上手く乗れればタイムを大幅に短縮できるわ」