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恋するワルキューレ 第二部

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『2位はジローラモとサエコの『ヴィットリオ・フェラガモ』。約2分差よ。3位は『クラブ・クワトロ』。こことは2分30秒差ね』
『ヨーシ。1時間走って2分差なら、かなり大きいヨ。このペースで走れば、油断しなければ優勝できるヨ』
『これもヒロミがサエコに負けてないからだヨ』
「キャー、裕美センパイ。優勝したら、“ヒロイン・インタビュー”もあるかもしれませんね。また雑誌に載るかもしれませんよ?」
そんな、舞。“ヒロイン・インタビュー”だなんて……。でも、そうなったら嬉しいわあ。
舞がひじで裕美を突いて、小声で話し始めた。
「……センパイ。『淑女協定』ですよ。優勝したら祝勝会をやって下さいね。パーティーですよ。ちゃんと私も呼んで下さいねー!?」
「もう、忘れてないわよ、舞! でもまだ勝った訳じゃないんだからね。それにチームの手伝いだってして、アンリとシャルルに良い印象を持ってもらわないとね」
「大丈夫ですよ、センパイ。男の人をお世話するのはわたしの方が慣れてますから、その辺りは任せて下さいっ!」
「……もう、舞ったら!」

「ちょっと、ジローラモ! 『ロワ・ヴィトン』と2分も差が付いちゃっているのよ!」
「サエコ、お願いだから、怒らないで下サーイ。あなたが怒ると本当に怖いんデスヨー」
「ちょっとは責任を感じななさいよ! ウチのチームの足を引っ張っているのはあなたなんですからね!」
「サエコ、それは言わない約束デース。わたし達はチームじゃありまセンカ? お互いに助けアッテ……」
「ふざけてるんじゃないわよ!」
 そう言って、サエコはジローラモの余った脂肪を摘まんで引っ張り、さらに捻りを加えた!
「アー! アー! イタイ、痛いデース! サエコ、止めて下サーイ!」
「ジローラモ、分かってるの!? 2分とは言え、向こうが自力で上回ってる結果なんだからね。このままじゃドンドン差は広がって行くわよ! 逆転は簡単じゃないわ!」
「スイマセーン、許して下サーイ! アッ、アッー!」
「あなたがローラン達にバトルを仕掛けたんだから責任とりないさいよ!」
「ワカリマシタ! ワカリマシタから、サエコ、もう止めて下サーイ! 痛いデース! ちゃんと策はあるんデース!」
「本当でしょうねえ? イタリア男は嘘ばっかり言うから信用できないわ!」
「ホント、ホントでーす! サエコ、信じてクダサーイ!」
「そう。じゃあ許してあげるわ!」
「ハア、ハア……。サエコ、本当に痛かったデース」
「ジローラモ、それで作戦ってなんなのよ? もったいぶらずに早く言いなさい!」
「……では、そろそろ仕掛けても良いかもしれませんね……」
そう言ってジローラモは会場のPCの前に座り、ラップタイムを印刷し始めた。
「ちょっと、ジローラモ。あなた何を見ているの? それってウチのチームのタイムじゃないわよ?」
「フフフ……。サエコ、まあ見ていて下サーイ。ロードレースで勝つには戦略と駆け引きが必要なのデース。それを彼らに教えてあげまショウ……」
ジローラモはその紙を持って、3位の『クラブ・クワトロ』のピットエリアに歩いて行った――。

裕美が3回目の走行を終えてピットエリアに戻ってきた。
「ハア、ハア……。アンリ、次お願いね!」
「まかせて、ヒロミ! それじゃ言ってくるヨ!」
「裕美センパイ、お疲れさまでーす!」
「調子イイね、ヒロミ。もう『スピード・フェチ』じゃないネ。『スピード・ヴィーナス』だよ」
「もう、シャルルは何を言っているのよ! “調子が良い”のはあなたの方でしょう?」
「もちろん、ボクは“ゼッコウチョウ“だよ!」
「シャルル、わたしが『調子が良い』って言ったのはそういう意味じゃないのよ」
“tete legere” 《テットゥ・レジェール》
「頭が軽い――。つまり“お調子者”って意味なの!」
「なんだい、ソレ? 日本語って難し過ぎない! ボクはヒロミを褒めてあげたんだヨ」
「シャルル、安心して、わたしがちゃーんと日本語を教えてあげるわ。ウフフッ、もちろんプライベートでね!」
「頼むよ、マイー!?」
「じゃあ、今度、ご飯を食べに行きましょう! シャルル、和食が好きだもんねー」
「オッと、マイ。ボクは和食は色々食べ尽くしているんだヨ。懐石料理だってね。何かボクを驚かせる様な美味しいモノってあるのかナ?」
「シャルルが食べたことのない和食ですかー? それじゃあ“スッポン”なんてどう? カメさんですよ、カメを食べるんです」
「”toutue!”《トウチュー》 カメー!? 日本人はそんなものを食べるのカイー?」
 ハッハッハ……。
 裕美達のチームはレース中ながらも、和気あいあいとしていた。順調に周回を重ね、『ヴィットリオ・フェラガモ』のチームをリードしているからだ。タイム差が付いた分、サエコとの直接対決はなくなってしまったが、ローラン達が確実にタイムを稼いで徐々に差を広げている。
 
でも――、ちょっと変よねえ。
あのプライドの高そうなサエコが、何もせず黙っているだけなんて? 負けているのに、嫌味の一つもないのはちょっと変だわ?
『ねえ、ローラン? ジローラモやサエコのチームはどうなの?』
『うーん、どうだろう? ちょっと気なるネ。彼らのローテーションの順番が最初と変っているんダ……。ちょっと順位を見に行こうカ?』
『そうね……。ちょっと気になるもんね』
 裕美とローランは急いでチーム・エンデューロの順位をチェックした。
 うん、やっぱり『ロワ・ヴィトン・ジャパン』が1位ね。
 2位は相も変わらず、サエコ達の『ヴィットリオ・フェラガモ』。
 このまま行けば、優勝は間違いな――
 えっ? あれ? 
 何よ!? タイム差がたったの10秒差しかない! 一体、どうなってるの!?
さっき見た時は2分以上の差があったのに、いつの間にか追い詰められている。
しかもそれだけではない。3位の『クラブ・クワトロ』とのタイム差も30秒にまで縮まっている!
カチ、カチッ! 裕美は慌ててマウスをクリックした。
画面を切り替え、周回毎のラップタイムをチェックしてみるが、裕美達のタイムは最初の頃とほとんど変ってない。
だが――、『ヴィットリオ・フェラガモ』や『クラブ・クワトロ』のラップタイムを見ると、ある時を境にして各選手のタイムが確実に縮まっているのだ。
一体、どうして? 彼らが今まで手を抜いていたって言うの?
「フフフ……。どうやら、気が付いたようですネエー」
ジローラモとサエコがそこにやってきた。裕美達が動揺している姿を見て、ジローラモはさも嬉しそうに、ニヤニヤと笑っている。
「オジョウサン、驚きましたか? これが私達の実力デース。ちょうど今、我々の仲間が交代したところデース。既にあなた達を逆転してるかも知れマセンネー?」
ジローラモに促され、裕美はもう一度キーボードを叩き、混合エンデューロの順位を出してみた。
すると『ヴィットリオ・フェラガモ』に逆転され、『ロワ・ヴィトン・ジャパン』は2位へ落ちてしまっている。
「フフフフフフ…………。なぜあなた達が逆転されてしまったか知りたいデスカ? 知りたいデスカ? 知りたいデショウ?」
 すると舞がジローラモにピシャリと言い放った。