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恋するワルキューレ 第二部

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「な、なによ、それ? あんたそうやって、カワイイ振りして男を騙しているの?」
「別にそんなつもり無いわよ。まあ、30過ぎのオバサンにはキビシイでしょうけどね。見なさい、もうお話は終わりよ!」
先頭集団がコースを1周し、全体のペースが上がり始めた。裕美もメインストレートに入り、いよいよ富士チャレンジの本当のスタートが今始まった――。
さあ、行くわよー!!
裕美は第1コーナーのヘアピンカーブに突入した。
参加者が多く混雑しているため、キープレフトでアウトから大きく回らざるを得ない。だが、その分裕美はメインストレートからのスピードを維持しながら、キレイにコーナーをクリアし、下り坂を一気に駆け下りた。
続くS字コーナーで裕美はペダルを回しながら、車体を傾け高速で連続するコーナーを走り抜ける。
この高速S字でもスピードが落ちない裕美に、サエコは再び驚いた!
 だたコーナーを抜けただけでなない。裕美はダウンヒルでのスピードを維持するため、他の選手が引っぱるトレインに便乗してとの“おまけ”まで付けて走り抜けたのだ。サエコが驚くのも無理はない。
 スピード・フェチの裕美の本性が出た様だ。『ワルキューレ』で実業団選手のトレイン走行にも付いて行ったのだ。これくらいのスピードなら全く問題はない。
もっともサエコも裕美に劣ることは決してなかった。二人ともトレインから無理に飛び出すことはしないが、むしろ続く短い登り区間では裕美の前に出るなど脚力では上かも知れない。
 二人は互いにマークしながら平地から坂を下り、いよいよ富士スピードウェイの最後の難所、最大勾配8.8%の登り区間に入った。
 下りの勢いそのまま直角のダンロップコーナーを高速で駆け抜けると、峠の様な激坂が目の前にいきなり飛び込んでくる。その遥か上方に最終コーナーとメインストレートが見えるのだが、その最終コーナーの隣には雪化粧を施した富士の山頂が見えるのだからその斜度の度合いが分かるだろう。しかもその登坂区間の距離はおよそ500メートルもある。ちょっとした山を越えるようなものだ。
さっきまで軽かったペダルが坂に入った途端、階段を登るかの様に重くなる。裕美はトリプル・フロントのギアを一気にインナーに落とした。この急坂を登るためには、ギアを出来るだけ軽くしなくてはならない。重いギアはスピードは出るが、消耗が余りにも激しいためだ。
だが、ここでサエコが裕美の前へ出た! 僅かだが、サエコの方がペースが速い!
「あーら? 随分ごゆっくりね? あなた坂は速いって、自慢してなかった?」
「何よ! まだ始まったばかりよ! 見てなさい!」
裕美はサエコに追い付くべく、シッティングからダンシングに切り替えた!
階段を一気に走り登る様に、力強くペダルを踏み込む!
ハア、ハア、ハア……。
しかしダンシングは坂でスピードが出る分、身体への負担が大きい。
心拍数は早くも170bpmを超えている! 呼吸もやや乱れ気味だ。
苦しい――。ドクン、ドクン――!
裕美の頭脳に、限界を超えたサインが喉や心臓から届けられる。
でも――、
ローランのためにも、サエコから遅れる訳にはいかないわ!
メインストレートまで持ちさえすれば、後の下りで少しは休むことも出来る。
もう少しの我慢よ! 裕美!
「ハア、ハア……。あんたさっさと千切れちゃいなさいよ! 鬱陶しいわね!」
 隣で走るサエコも今にも息を切らせそうだ。本来喋ることも苦しいはずだが、彼女も女の意地がそうさせるのか、さも余裕があるかの様に裕美に強がって嫌味を言ってくる。
「ハア、ハア……。あなたこそ苦しそうじゃない! ダンシングを止めてサドルに座れば、楽になれるわよ!」
もちろん裕美もキッチリと言い返し、一矢報いるのだが――、ただロードバイクではサエコの後ろを走るのが精一杯だ。登り坂での僅かな風も避けるべくサエコの後ろを走ってはいるが、とても追い抜けそうにはない。
サエコがわずかにリードしたまま、二人はメイン・ストレートに入った。
約1.5kmメインストレート。ここも坂に続き全力で走らなくてはいけない区間だが、二人ともトレインに乗ることを優先し前に出ようとはしない。平地の直線故に無駄に体力を消耗することを避けるためだ。
ピットエリア前を駆け抜けると、裕美を応援する声が聞こえてくる。
「裕美センパーイ! 頑張ってー!」
「ヒロミー! アレ、アレー!」
舞! それにローランだ!
裕美は手を振って彼らの応援に応えた。
あと1周。苦しいけど、彼のために何としても頑張らなきゃ!
 
サエコが3周を走り終え先にピットインした。
続いて裕美もピットインする。
結局二人は3周丸々、女同士の奇妙なランデブーを続けた。つまり実力はほぼ互角だったと言うことだ。
「ジローラモ! あの裕美って全然シロウトじゃないわ。急いで走るのよ!」
「オー、それは驚きましたネ。でもレースはまだ始まったばかりデース。では行って参りマース」
裕美も次の出走者アンリに計測チップを渡した。この計測チップが各チームの周回を記録するセンサーになると同時に、駅伝で言う“タスキ”の代わりになる。
「それじゃあ、ヒロミ。行ってくるよ!」
「アンリー、頑張ってー! フレフレ、アンリー!」
ロワ・ヴィトンの女性応援団からも声援が飛ぶ。
「裕美センパイ、お疲れさまー! センパイ凄い速かったですよー! 女の人なら何人も抜いていたしカッコ良かったです!」
「ハア、ハア……。ありがとう、舞……」
「ヒロミ、スゴイ速かったヨ。でもあまり無理はしないでネ」
「フウ……。これくらい大丈夫よ、ローラン。それにしてもサエコって、思ったより速いのね?」
「ああ、彼女もなかなか速いヨ。でもヒロミがサエコに負けなければ、ボク達のチームが勝てるヨ。今までもジローラモ達には勝っているからネ」
「本当? わたし次も頑張るから!」
「ありがとう、ヒロミ。軽くクールダウンして、ベンチで休んでネ」

「「キャー! ローラン! 頑張ってー!」」
ローラン達がメインストレートを通過する都度、裕美もロワ・ヴィトン応援団も一斉に声を上げた。ローランも手を振って応えてくるので、応援合戦が余計に白熱する。
「キャー、ローランが今わたしを見てくれたわー!」
「わたしよー! 今、彼と目が合ったもーん!」
「違うわよ! わたしに手を振ってくれたんだからー!」
 辺りにはやや“キレ気味”の女達の甲高い声が響き渡っていた。
 だが裕美と舞は、ローランが走り過ぎると応援もそこそこにピットエリアにあるノートPCの元へ駆け込んだ。このPCで自分達の順位と週回数、そしてラップタイムのチェックが出来るのだ。
裕美がマウスをクリックし、男女混合エンデューロの総合順位を表示させた。
 きゃー、ヤッターー!
 やりましたね! センパーイ!
『アンリ、シャルル、やったわよーー!! 今、わたし達『ロワ・ヴィトン・ジャパン』が1位よー!』
『本当カイ? ヒロミ?』
『”Tres bien!”《トレ・ビアン!》 ヤッタネ、ヒロミ!』
『でも2位と3位はどのチームだい?』