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恋するワルキューレ 第二部

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「もう! 彼女らったら何を考えているのかしら? あれじゃ、ローラン達の邪魔にしかなっていないわ!?」
「先輩、怒っても仕方ありませんよ。彼女達からすれば、ローラン達を先輩に横取りされたみたいなものですからね。焦っているんですよ」
「そうは言っても、ローラン達だって優勝を狙って来ているのに、きっと困ってるわ……」
「まあ、放っておきましょう。先輩は有利な立場にいるんですから、そこで花みたいに座って居れば良いんです。白鳥や孔雀だって餌場に群れる姿は醜いでしょう? 姦しい諍いの場を見せたら女の価値が下がりますよ!」
「……もう、舞ったら恋愛に関しては“大人”ねえ。本当に感心しちゃうわ……。でも舞はどうするの? このままじゃ、アンリやシャルルだって近づくことも出来ないのよ?」
「わたしなら大丈夫ですから、心配しないで下さい。『可愛い女』っていうのは、何も出来ない女じゃないんですよ、センパイ」

そんな時、一人の女の子がちょっと恥かしそうにローランへ声をかけた。
その手には、女の子らしい可愛いハンカチで包まれたものがある。大きさから言って、多分ローラン達のためにお弁当を作ってきたのだろう。
「あのぉ……、ローラン、アンリ、シャルル、わたしお弁当を作ってきたんですけれども……。三人の分ありますから、食べてもらえませえんか……」
 そう言って、彼女はお弁当の包みをローラン達に差し出した。でも――、ローラン達はちょっと気まずそうな顔をして、互いに視線を合わせてしまった。
「あのー、ゴメンよ。もうすぐレースが始まるから、あまり食べれないんダ……。レース前に食べ過ぎるとお腹が痛くなっちゃうからネ……」
「ええっ!!」
 女の子の顔色が一瞬で変わる。
「ええっと……、補給食はもう自分達で用意してあるから、大丈夫だから……」
「ああ、あの、ごめんなさい……。一生懸命作ったんですけど、邪魔になっちゃったみたいで……」
「アアっと、そんなことないカラ。でも、要らないって訳じゃないんダ。レースが終わったら食べれるから、ちょっと待っていてくれるかナ?」
「ごめんなさい、わたし良く分からなくて……。それじゃあ、ローラン、レースが終わったら……」
 女の子はホッとした様な安堵の表情を浮かべた。3人分ものお弁当を作ってくるのだから、その本気度が伝わってくる。ここでローラン達が受け取らなかったら、本当に泣き崩れていたかもしれない。
 その時、舞がローラン達に声をかけた。微妙な空気の中に生まれた隙に乗じて、ロワ・ヴィトン応援団の中にスっといつの間にか割り込んでいたのだった。
『ローラン、アンリ、シャルル! わたしスポーツ用のゼリーを持って来たんだけど、良かったらどうですか? これならレース前にちょうど良いでしょう? あとバナナも持って来てるんだけど、どうですか?』
 舞がアイス・ボックスから、携帯パックのゼリーを取り出した。
『ありがとう、舞! それなら一つ貰おうかナ?』
『はい、ローラン。まだたくさん用意してあるから、幾つだって良いわよ』
『ローランが貰うなら、ボクも一つくれるかナ?』
『はい、アンリもね』
『それじゃあ、ボクはバナナが欲しいナ!』
『はい、シャルル、どうぞ』
『舞、ありがとう。気が利くんだネ?』
『エヘっ。わたし昔、陸上部のマネージャーをやっていたから分かるんです。運動前はこうゆう消化の良い食べ物の方が良いんですよね? ちゃんと冷たい氷も用意してあるから、必要なら言ってね?』
他愛もない会話の様に見えるが、舞の“良妻”ぶりを見せ付けられ、さっきの女の子は半ば泣きそうな姿で固まってしまった――。
無理もない。折角作ってきたお弁当は何も役に立たない、女として使えない、わたしは“ダメな女”だと、みんなの前で宣告された様なものだからだ。
ローラン達は舞の持ってきたゼリーやバナナを、彼女の眼の前で嬉しそうに食べている。彼らに罪の意識はないだろうが、その笑顔が“自分が女として負けた”のだと覆しようのない判決を下している。もはや何の抗弁もしようもない。何を言っても、“女”として舞と自分の格の違いをあらわにするだけだからだ。
これ以上恥の上塗りも出来るはずもなく、彼女は泣きそうになりながらも、その場に立ちつくしていた。
…………。
かのロワ・ヴィトン応援団の女の子達は、一瞬で凍りついた。舞の予想以上の攻撃を見せ付けられたからだ。
さっきまで、我先にとローラン達にアプローチをしかけていたのに、今は声を掛けることもできない。互いに目配せをして、「あなたが」、「ほら、あなたこそ」と言うが、舞のカウンターが恐ろしく、誰もがその場から一歩前に踏み出すことが出来なくなってしまった。ここで恥の上塗りでもしようものなら、女としてローラン達の前に立つこと等、二度と出来ないだろう。
一方、舞はそんな彼女達を全く気にする様子もなく、屈託なくアンリやシャルルと話し続けている。向日葵の様に明るい笑顔は、裕美がオフィスでいつも見ている舞と変わる所は何もない。ライバル達を歯牙にもかけない『可愛い女』がそこに居た。
『これを見て下さい。ちゃんとストップ・ウォッチにノートとバインダーを持ってきましたからね。ちゃんとみんなのタイムを計って、ちゃーんと記録もしてあげますから!』
『マイ、ほんとうに助かるヨ。それじゃあ、マイにマネージャーを頼もうか?』
『ハハハ、マネージャーじゃなく、もう監督だね』
『わあ、嬉しい! 何でも言って下さいね!』
『そうだね。それじゃあお言葉に甘えて頼みたいんだけど、本番の時にボク達のラップタイムを計って記録しておいてもらえるかナ?』
『お安い御用です! でもそれだけで良いんですか? 他のチームとかもチェックしましょうか?』
『マイ、本当に気が利くんだネ! 是非、頼むよ! あそこのPCでチームの順位が分かるから、タイム差を教えてくれるかナ?』
『分かりました。ライバルチームもチェックしませんとね。何せ、目指すは優勝ですから!』
『もちろんだヨ! 頑張ろうネ!』
 アンリやシャルルだけでなく、ローランの視線も舞に向けられている。
 そんな姿を見せられたら、裕美も不安になってしまう!
 あーん、舞! お願いだからローランだけは盗らないでー!!
『じゃあ、マイ監督。これからちょっと走りに行くから、ラップ・タイムを計ってくれるかな?』
『任せて下さい。携帯でもタイムは計れるから、ちゃんと全員のタイムを計ってあげますよ』
『それじゃあ、ローランも行こうか』
『いってらっしゃーーい!』
ローラン、アンリ、シャルルの3人は再び、バイクをセットしてサーキットを走る準備を始めた。
『それじゃヒロミ、ボクらはもう少し走ってくるよ』
『えーっと、あのー、いってらっしゃい……』
「じゃあ、先輩。わたしはゴール前でみんなのタイムを計ってますから、ちょっと待っていて下さい」
「えーっと、あのー、舞……」
 裕美が不安そうな顔をしていると、舞がそっと裕美に囁いた。
「センパイ、大丈夫ですよ。ローランは盗りませんから! 『淑女協定』ですもんね!」
「そんな! ローランはだなんて! わたしは別に……」
「それじゃあ、センパイ! 行ってきますからねー!」