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恋するワルキューレ 第二部

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『ハハハ、確かにそうだよネ。でもそれを言うなら、ボク達だってそうだヨ。ヒロミだって、すごいジャージを着ているから、みんなビックリしているはずサ』
『そうですよ! センパイは背も高いしスタイルも良いし、それに“ヴィーナス・ジャージ”だって目立つし、十分速そうに見えますよ!』
ありがとう、ローラン、舞。こうゆう時に励まされると、ほっとしちゃうわぁ。
『それじゃあ、ヒロミ。あまり心配ばかりしても仕方ないからネ。実際にサーキットを走ってみようヨ』
『ええっと、まだレースが始まってないのに、コースを走って良いの?』
『大丈夫だヨ。レース前にコースに慣れておく必要があるし、ウォームアップもしなくちゃならないから、ちゃんと試走の時間が設けられているんダ』
『ああっと、ローラン。それならちょっと待っていてくれる。バイクを取りに行ってくるわ』
『それなら、ボクも行くヨ」
『そんな、自分で出来るから……』
『イイよ、気にしないデ。バイクもチェックしなきゃならないし、他に荷物もあるだろうからネ』
『ありがとう、ローラン!』
「フフフ……。センパイ、上手く行きましたね……」
舞は子猫の様に裕美の腕に抱き付いて、小さな声で囁いた。
「ありがとう、舞! 感謝するわ」
「いえいえ、どういたしまして。それじゃあ、わたしはアンリとシャルルに声を掛けますから――」

『ヒロミ! 組み立てはボクがやるヨ。チェーンの油で手が汚れるからネ』
ローランがトランクから裕美のロードバイク『デローサ』を取り出して、タイヤ等を組み立てくれた。
本当、ルックスだけでなく性格も良いんだからステキよねえ。
考えてみれば、ローランだけじゃなくて、アンリやシャルルも、ルックスも性格も良いし、あれだけ女の子が集まるのも当然かもね。
『ローラン、それにしてもビックリしちゃった。あんなに応援してくれる女の子が来ているなんて、みんな人気あるのね?』
『うーん、彼女達も応援に来てくれるのはウレシイんだけどネ……』
ローランは意外にもちょっと困った顔をした。
『ボク達はロードバイクで一緒に走りたいと思ってるんだけど、実際にそういう子はいないんだよネ……。一緒に走れば色んな所へ行けるし、もっと楽しい話だって出来るのに、ちょっと残念だよネ』
『確かにその通りよね……。わたしも別のチームにも入っているけど、一緒に走った方が全然楽しいもの!』
『その点、ヒロミは一緒に走ってくれるからウレしいヨ。しかもレースにまで出てくれるんだからネ。それにヒロミはフランス語も話せるから気兼ねなく話しをできるし。ヒロミがチームに入ってくれて、アンリやシャルルもとてもよろこんでいるんだヨ』
 ローラン……。わたしにそんな事を言ってくれるなんて……。
『ありがとう、ローラン。そう言ってくれると、私も嬉しいわ……』
『だからヒロミ! 今日は頑張ろうネ! あっと、でもそんな無理はしなくてイイから。ヒロミの実力なら、楽しく走ってくれれば十分入賞できるヨ』
そうよね。楽しく走ることが一番なんだろうけど……。
でも、わたしどうしちゃったのかしら?
この前のヒルクライムみたいな苦しいレースはイヤだと思っていたのに……。
今は彼の期待に応えてあげたいって思っちゃう!
 趣味としてのロードレースだけど、もし優勝できたら彼も凄く喜ぶんだろうなあ……。
『あの、ローラン! わたし頑張るから、絶対、優勝しましょう!』
『ホントウ? ヒロミがそう言ってくれるとウレシいヨ! ちょっと心配だったんダ。無理に誘っちゃったんじゃないかってネ』
『実は……、最初はそうだったけど……。でも、わたしもローラン達と一緒に走れて楽しかったもん!』
『ハハハ。ありがとう、ヒロミ! それじゃ走りながらコースを説明するから、みんなと一緒に行こうヨ』

* * *

「裕美センパーイ、いってらっしゃーい!」
舞の声援を受けて、裕美、ローラン、アンリ、シャルルの4人はピットエリアを出てコースインした。本番前にコースの感触を十分に掴むため、またスタート前のウォームアップとして、この富士チャレンジの参加者達は次々と試走を始めていた。
特に裕美はサーキットを走ることが初めてなら、『チーム・エンデューロ』というレースに出ることも初めてなので、ローラン達が走りながらコースをレクチャーしてくれた。
『ヒロミ、まだ試走だから人が少ないけど、本番になったらもっとたくさんの人でコースがイッパイニになるからねネ』
『今でも沢山走ってると思うけど、もっと増えるんだ?』
『沢山いるだけじゃない。速い人、遅い人が一緒に走るから、ブツかって事故になる人もいるんダ。もし自信がなければ、左側を走れば良いヨ』
『分かったわ。キープ・レフトね!』
『じゃあ、まず第一コーナーに入るけど、ちゃんと減速してネ。下りのヘアピンカーブだし、沢山の人が突っ込んでくるんダ』
“Oui, d'accord, Laurant! 《ウィ、ダコール》
裕美はローランの指示に、”Oui”《はい》と返事をしたものの、普通のコーナーと同じ感覚で第一コーナーに進入した。別にローランの指示を無視したつもりはないが、“下りのコーナー”に特別な意識がなかった裕美はペダルを漕ぐのを止めて、単に“普通”に減速しただけだった。
『ヒロミ、速い!』
 減速が足りなかった裕美は、ローラン達により車体1台分前に出てしまった。
何これ? ちょっと、やあ、やあぁー!
裕美はローランの言う“減速”の意味の認識が甘かったことを理解した。
下りのカーブではコーナリングの最中でも、“どんどんと加速をして行く”!
ましてヘアピンカーブの様なキツいコーナーでは、車体を大きく斜めに倒すことが必要だ。裕美とデローサは、その不安定な姿勢のままグングン加速して行った。
裕美の視界に地面が斜めになったありえない光景が写る。
さらに加速するコーナリングの遠心力で平衡感覚まで狂ってしまう。
高速コーナーを経験したことのない裕美にとって初めての感覚だった。
マズい!! 何とかしなきゃ!
まずは減速、ブレーキ! ああっ、でもブレーキはダメー!
ドライブが趣味である裕美にとって、コーナリング中のブレーキは厳禁だということは頭に刷り込まれている。こんな時に急ブレーキをかければ、タイヤがグリップを失いクラッシュだ! バランスを保って、このままコーナーを走り抜けるしかない!
慌てちゃダメ! 落ち付いて、裕美!
落車の危機を肌で感じ、裕美は思考を掛け巡らせる。
でも――、これと似たような感覚って、どこかで……。

そうよ! スキーでターンを決める時と同じじゃない!?

ターンでバランスを崩さない様にするためには――!?
まず、外足に荷重を掛けてエッジを利かせて!
裕美は外足をしっかり伸ばして、ペダルをしっかりと踏む。
膝と腰を落として、重心を下げて!
車体に垂直に体重を預けるべく、ハンドルを押え、サドルを腰に据える。
するとバイクと身体の『軸』が一直線に繋がり、ペダルから左足に、ハンドルから腕に、サドルから腰に、タイヤのグリップ感が直に伝わってくる。パラレル・ターンでスキーの板に“乗る”あの感覚と同じだ。