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恋するワルキューレ 第二部

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「寝取るなんて、そんな私まだそんなことしたこともないのにー!?」
えっ……、
舞がきょとんとした顔で、裕美を見つめる。
「あのー、センパイって、もしかして……」
「ちょっと、舞! あなたったら、何を考えてるのよ? ねえ、変なことを聞かないでってば……」
「ふーん……。だから、先輩、男の話に乗って来なかったんですねぇー」
「あの……、舞。違うんだからね……」
「先輩、大丈夫です。自信を持って下さい。女の私からみても、十分素敵ですから」
「ちょっと舞! 何よ、その上から目線は……。そういう、あなたはどうなのよ?」
「えっ、わたしですか……?」
舞はちょっと顔を赤らめて、困った様な顔をした。小指を口に当て、恥じらう様な仕草をしつつ、そして言ったのだった――。
「センパイ、アノですねえー。人類の真理を一つ教えて差し上げます――。

『可愛い女』を嫌いな男なんて居ないんですよ」

!!
舞! あなた――!? 
わたしなんかよりもずっと子供だと思ってたのにー!?
妹みたいだと思ってたのに、そんなあ……。

「さあ、センパイ。それじゃ行きましょうか? どの道、帰る訳には行かないんですから」
「ちょっと、舞。それなら、お願い! わたしを助けて! 絶対一人にしないでー!」
「もう、仕方ないですねえ。センパイ、わたしがアンリかシャルルにアタックしますから、アシストしてくれますか?」
「する、する! 約束するから! だから助けて!」
「そうですねえ……。センパイ、レースが終ったら、『ファランクス』のパーティーに私も呼んでくれますか?」
「絶対呼ぶから、舞、一緒に居て! お願いー!」
「分かりました。『淑女協定』成立ですね! センパイ、突撃しますよ!」
舞はニコリと笑うと、裕美の手を掴んでローラン達の所へ力強く進んで行く。
「ちょっと、舞? あなた、あの人達が怖くないの?」
「怖くないですよ。キャンキャン吠えているのも今だけです。男を盗られた後の女は声も出なくなりますから」
…………
舞、あなたって強い子だったのね……。

舞は“可愛い笑顔”のまま、ライバルの女性陣の間に割り込み、その花道をスイスイと歩いて行く。彼女らをまるで案山子か道端の石ころの様にしか見ていない。
実際レースに参加する裕美やローラン達と応援をするだけの彼女らとの間には越えられない壁がある。その立場を知ってか、舞は裕美を連れて『みんな、お待たせー!』とローラン達に堂々と“フランス語”声をかけた。

”Bon jour! Laurant, Henry, Charles! Moi, c’est Mai. J’allais avec Hiromi!” 
《ボン・ジュール! ローラン、アンリ、シャルル! 舞です。裕美センパイと来ましたー!》
‘Je vais encourager vous et Hiromi a la course . Bon courage !’
 《わたしレースでみんなとセンパイのこと応援しますから、頑張って下さいねー!?》
 
 舞! あなた、そこまでするの!?
裕美も流石に驚いた。
フランス人にフランス語で話しかける――。そんな当たり前の行動だが、この場では完全にご法度だ。
フランス企業のロワ・ヴィトンでもフランス人以外の社員も多く、社内の共通語は英語になっており、フランス語が出来ない人も実はかなり多い。なので今日の様に日本人・フランス人が集まる場では、メンバーの言語能力を確認した上で話す言葉をチョイスすることが暗黙のルールだ。
幸いローラン達は日本語もある程度話せることから、彼女らも日本語で会話をしていたのだが――、舞はフランス語で話しかけ、その空気もあっと言う間に破壊した。
フランス人がフランス語で話しかけられれば、相手が誰であろうと必ずフランス語で返す。あっと言う間にローラン達と自分だけの世界を作り上げた。
『やあ、ヒロミ、マイ! どうしたんだい? さっきから二人で話していたみたいだけド?』
『そうなんです! ローラン、聞いてもらえますかー!? センパイが今頃になって走りたくないって言い出すんですよー! 何か周りの人達がみんな速そうに見えるらしくてー』
 ええっ、舞!? わたしそんなこと言ってないじゃない!
『ヒロミ、大丈夫だヨ! 初めてのレースで緊張するのは分かるけド、ヒロミなら心配いらないヨ』
『そうですよ、センパイ! ローランだって、そう言ってるじゃないですか? 頑張らなきゃダメじゃないですか!?』
『あのう……、ごめんなさい、ローラン。凄い速そうな人が沢山いるんで、びっくりしちゃって……。わたし達、優勝するなんて言っていたのに、大丈夫かしら?』
 舞の突然のフォローに、どう対応して良いか困り果て、裕美はつい思わずもう一つの不安を口にした。
 この富士スピードウェイに来てみて驚いたのだが、どう見積もっても前回のツール・ド・草津を軽く上回る人達が集まっている。事によると1000人も超えかねない。
ローランの話では、チーム・エンデューロでは、参加するチームが少ないから優勝が狙えるということで裕美も応諾したのだ。これだけ参加層の厚いレースで、素人の裕美がとても優勝が狙えるとは思えない。
『ハハハ、まあヒロミが驚くのも無理はないよネ。なんせこの『富士チャレンジ』には3000人の参加者が集まっているんだからネ』
『えー!? 3000人! ローラン、本当にわたし達勝てるの!?』
『ハハハ、だからそんな心配はいらないってば。チーム・エンデューロで走る人はそそんなに多くないんだヨ。この富士チャレンジに走る人達の半分以上は『ソロ』の参加者達だからネ』
『えっと……? ローラン、『ソロ』って何かしら?』
『ヒロミ、ソロっていうのは文字通り、一人で100km、200kmを走るんだヨ』
『ええっ? 100kmは分かるけど、200kmを交代もなしで一人で走るの!?』
『まあ、200kmと言ってもロードレースなら珍しくないヨ。実際、今日は実業団とかセミプロレベルの人だって出るんダ。もちろん彼らはソロだから、ボク達と競争する訳じゃないしネ。それからボクらが参加する『チーム・エンデューロ』だけど、もっと細かいクラスに分かれているんだヨ』
『クラス分け? 何か違うの? 同じ耐久レースじゃないの?』
『まずエンデューロも走る時間が違うんダ。4時間と7時間走るチームは全く別のクラスになるんダ。そこから更に男性だけのチーム、女性だけのチーム、そして僕らが出る男女混合チームに分かれる訳サ。だからここにいる人達のほとんどは、ボク達の勝負とは関係のない人たちなんダ』
確かにピットエリアを見回してみると、女性は応援だの人がほとんどの様で、女性のロードレーサー自体はほんの少ししかいない。
『それにヒロミは女の子としてはかなり速いレベルだヨ。ボクらに付いて来れたんだからネ。心配することなんてないヨ』
『ありがとう、ローラン……。でもちょっと安心したわ。チーム・ジャージを着てる人達って速そうに見えるからびっくりしちゃって』